少しだけ甘い時間を過ごしたあと
唇が離れ恍惚とするわたし。
…と、裏腹に燈冴くんは違って。
「ところで緋奈星さま。
《《あの男》》の事なんですが。」
急に真面目に
そしてちょっと怒った表情の彼に
いきなり現実に引き戻された。
「えっと…」
キスの余韻は…ないんだ。
さすがというか
やっぱり燈冴くんは、いつもの燈冴くんだ。
「俺の知らない間に
いつの間に婚約者なんて?」
「違う違う!そんなんじゃないよ。
これには複雑な事情があって…」
「複雑な事情…ねぇ」
目を細めてジロリと睨みをきかせるこの感じ
たぶん怪しんでる。
そしてきっと誤解もしてる。
「実はね―――」
わたしは燈冴くんに
これまでの経緯を簡単に抜粋して説明した。
でも、ついさっき父から聞いた事だけは伏せた。
じゃなきゃ燈冴くんが気にすると思ったから…。
「そんな事が…
私が後継人の話を《《蹴った》》からですね」
「・・・・」
責任を感じている本人を前に
返す言葉が見つからない。
全部言わなくてもバレバレで。
”後継者のために結婚を”なんて聞かされれば
断った自分のせいだって誰でも勘付く。
特に察しがいい燈冴くんじゃ尚更…。
「仕事と緋奈星さまの人生を天秤に掛けるなんて…」
珍しく感情的なのが
グッと握った拳でわかる。



