「婚約までする必要がある!?
後継者とは関係ないじゃん!」
わたしが思わず前のめりに声を張ると
父は顔色を変えず冷静なまま
『それは…』と少し躊躇いを見せた。
「相手方のご希望なんだ」
「そんな…」
父の言葉を聞いて一瞬驚いたけど
同時に鮎沢さんが言っていたの思い出した。
「買収…なんだね」
「…」
何も言わない父の反応が答えなんだと
わたしにだってわかる。
「そんなに経営が大変なの?」
「徐々に…だがな。先の事も考える必要がある。
今回のように私が倒れてしまえば
会社がまとまらなくなるんだ。
今後のことも踏まえないといけない」
「そう…。それでも婚約なんて…
会社のためなのはわかってるけど
わたしは燈冴くんが…」
言葉に詰まってしまった。
この買収が失敗すれば、父の会社の未来は?
「すまない、緋奈星。
まさか彼と恋愛関係だったとは…」
「あ、うん…」
言えない。
ついさっき再会して気持ちが通じ合えたなんて。
こんな非常事態なのに。
「もう少しこちらも話し合いをしてみる。
それまで婚約の件は保留だ」
「うん…そうして欲しい」
保留じゃなくてナシにしてもらいたかったけど
倒れたばかりの父を責めるわけにもいかず
わたしはそれ以上は言えなかった。



