溜め息を吐きながら病室に戻ったわたしは
起きていた父のベッドサイドの椅子に腰掛けた。

「なんでこうなっちゃうかなぁ…。
 ねぇ、お父さん?
 後継者って、燈冴くんじゃなかったの?」

「彼は…自分から断ったんだ」

「え…」

思いもよらない返答に唖然とした。


わたしが気になっていた”謎”

会社の後継者は、1番身近で誰よりも会社と社長のことをよく知って理解している秘書の燈冴くんだと、今まで疑う余地もなかった。

そんな話題が父からも
もちろん燈冴くん本人からも聞いた事はなかったけれど、それが”当たり前”だと自然と思っていたから。

けれど、そうではないと
父がゆっくりとその真相を話し始めた。

「私も、燈冴くんが跡取りならと願っていた。
 仕事はもちろん、見えないサポートも素晴らしくて会社にとってもこの上ない人材だ。
 けれど…本人の意向としてはそれを望んでいなかったんだ」

「どう…して?」

「彼は自分を凄く蔑んでいて
 『そんな器じゃない』と断り続けていてな。
 そう言われてしまえば強引にとはいかない」

「それはそうだけど…
 だからって…」

唇を噛み締め
膝の上に置いていた手でギュッとスカートを握る。

「じゃぁ…婚約は、どうして?」

それが1番、納得出来ないこと。