「そうか…
 話し合いはちゃんと出来たか」

「はい。
 いろいろと申し訳ございませんでした」

父の病室に戻ってきてから
燈冴くんがわたしに打ち明けたことを説明した。

父は最初から全てを知っていた上で
燈冴くん(自分)の口から話してもらうつもりだったと
この時に初めて聞かされた。

「緋奈星にも事情がわかった事だし
 それはそれで良い事なんだが…」

そう言いながら
わたしと燈冴くんを交互にジロリと見てくる。

「どうやら《《話》》だけじゃなかったみたいだな」

「えッ!?」

意味深すぎる言葉に
父が何を悟ったのか、すぐに察した。

「幸せな事があったみたいで
 それもそれで、か…」

中途半端に終わらせる父のセリフに
さっきまでのキスを思い出させられたわたしと燈冴くんは、変に意識してしまいお互いの顔も見られないほど緊張していた。

わたしは実の父親に気まずく
でもたぶん、燈冴くんはそれ以上に居心地が悪かったと思う。
彼にとっては”社長の秘書兼執事”として
そして”娘の父親”として、相当な覚悟が必要だから。

それぞれが苦笑いでこの場を収まる。

そう思っていたのだけど―――――



「失礼します!漣社長ッ」


男の声と共に突然開いた病室の引き戸。

現れた人物に燈冴くんと父、そして誰よりわたしは
その姿に目を丸くし愕然としてしまった。


すっかり忘れていたんだ。


鮎沢芹斗(あの人)のことを―――――





         



  【私にはアナタが必要なんです。終】