「燈冴くん…
わたしも、わたしのお父さんも貴方には帰ってきてもらいたい。
それを前提に、燈冴くんは自分のお父さんとの事からも目を逸らさないで欲しいです」
そう伝えると
彼を眉を下げて寂しそうに言う。
「それは…なかなかなお願いですね」
…肯定も否定もしなかった。
わたしがここまで頑固だったから
言い返せない、かもしれない。
でもこのままじゃ絶対ダメだから。
「わがまま言って…ごめんなさい」
もう一度、深く頭を下げた。
逢えた事が嬉しかったのに
同時にこんなにも複雑な気持ちになるなんて
素直に喜べないなんて…
「…ッ」
もうずっと涙が止まらない。
泣いてるのなんて、もうとっくにバレてると思うけど、それでも手の甲で口を塞いで声が漏れないのが必死。
『ごめん』ってどうして言わなきゃいけないのか。
素直に”大好き”って
どうして言っちゃいけない気がするの。
逢ったら言うって決めたのに
こんなはずじゃなかったのに…―――
「緋奈星さま…
顔を上げてください」
彼の優しく哀しい声は耳に入ってくるけど
こんな姿を見られたくなくて
頭を下げまま首を左右に振る。
すると、燈冴くんがこちらに近付いてきたのが
廊下の床を見ている視界に足元が入ってわかった。
「俺からも、いいですか?」



