「燈冴くん…ッ!」
思わず彼の胸に飛び込んで
わんわんと泣いてしまったのは
”これが現実だ”って教えてもらったから。
大好きな人にまた逢えたこの瞬間が
奇跡だと感じたから…
「どうして今まで1度も連絡くれないのッ
もう…帰ってこないかと思った…」
「緋奈星さま…
遅くなってしまい申し訳ございません…」
「本当だよ…
燈冴くんの、バカ…」
今はただ、戻ってきてくれた事が嬉しくて
ただただそれだけで…
待っていた人と再会出来た喜びって
こんなに心が救われるんだと
初めて味わう感動だった―――
しばらく泣いて喜ぶわたしと
背中を優しく摩る燈冴くんを見つめていた父。
「燈冴くん。
わたしの方は大丈夫だから
緋奈星に今までの事を話してやってくれないか?」
今までの事…
それはつまり、燈冴くんが出て行かないといけなかった理由の全て。
「…はい、そのつもりで戻ってきました。
緋奈星さま、少し宜しいでしょうか」
そう言ってわたしを体から離し
真剣な表情で『外の方へ…』と病室から出るよう促した。
父の病室は、一般病棟とは別の特室。
“社長“という立場であり防犯上も兼ねて関係者以外は立ち入り禁止の階。
静まり返った廊下には
わたしと燈冴くん以外、ほんの数人の看護師しかいなくて、足音が響く――



