そしてまさかそんな風に燈冴くんの事を思っていたなんて、全然知らなかった。
家族にも何も言ってくれないから…
不器用な父であり、頑固な社長だ。
「それに…
もうすぐ彼は戻ってくる」
「えッ!?燈冴くん帰ってくるの!?」
「そんな気がする、だけだ」
『気がする』と言うわりに父は何かを知っているのか、確信を含む言い方で濁す。
”たぶん”とか”きっと”とか父は嫌いな人だから
こういう時の発言は、なぜか…
「燈冴くん…?」
―――当たる。
「緋奈星さま…」
あまりに突然の出来事だった。
静かに病室の扉が開き、入口で会釈するスーツ姿の燈冴くん。
わたしは自分の目を疑った。
「どうして…」
驚きすぎて、疑問の言葉しか出て来ない。
父が倒れたときもそうだけど
人って、あまりにビックリするとフリーズするんだなって
こんな時なのに冷静に思ってしまう自分までいる。
何がどうなっているのか目を見開くわたしの横を
スッと通りすぎて父のベッドの横に移動する彼は。
「社長…大丈夫でしょうか」
「あぁ、もう平気だ。
それより、おかえり…燈冴くん」
「ただいま…戻りました。
社長、緋奈星さま…」
穏やかに笑う父に沈痛な表情を浮かべる燈冴くんは
わたしと父にまた、頭を下げた。



