「心配を掛けて…悪かった。
燈冴くんがいない間
なんとか1人で乗り切ろうと思ったんだがな…
まさかこんな事になるとは…」
まだ体調が戻っていないせいか
力なくベッドに背を預ける父からは
社長としてのいつもの峻厳とした態度が見えず
掠れた細い声で話す姿は珍しく弱気だった。
「わたしがもっと早く気付いていればこんな事にならなかったかもしれない…。ごめん、お父さん…」
一緒に住んでて1番近くにいる娘なのに…
わたしは何も見てなかった。
なにも…
「これは私自身の問題だ。
緋奈星のせいではない」
「確かに仕事の事はわからないけど…
でも燈冴くんがいないからって全部自分1人で背追い込もうとするなんて、そんなの無理に決まってるじゃん。どうして誰にも頼まなかったの?せめて秘書の代役とか…」
「代役か…」
普段なら『お前には関係ない』と突っぱねて拒絶する父が、聞く耳を持ってわたしの意見を素直に受け入れ、返す言葉を真剣に考えている。
そんなの初めて…
「代わりの者は必要ない。
私にとっての秘書は、燈冴くんだけだ。
彼が戻ってくるまでは居場所を残しておきたい」
「お父さん…」
「唯一無二の私と緋奈星の、執事だから…」
父にしては本当に意外すぎる返事だった。



