こういう時、仕事で1番近くにいるのは
皮肉にも、《《あの人》》。

「緋奈星さん、おはよう」

今朝も爽やかなスマイルを放出させ
当たり前のように車で迎えに来る鮎沢さん。

毎日よく懲りないなと呆れてしまうけれど
父の事を聞くにはベストな相手だ。

「最近、父…社長は仕事でどんな様子ですか?」

渋々、後部座席に乗り込んでさっそく本題を切り出すと、彼はルームミラー越しにわたしを見ながら答えた。

「どんな様子って聞かれても…。
 すごく忙しそうだけど
 僕が来る前の仕事の様子は知らないからね。
 今が普通かどうかはよくわからない」

「そう…ですか」

彼の言う事は、悔しいけれどわたしも同じ。
仕事での父を知らない。
それを知って1番理解しているのは…燈冴くんだけだから。

「何かあったの?」

「…いえ、何かってほどの事でもありません。
 ただ…」

「ただ?」

窓の外からチラりとルームミラーに一瞬、目を移すと、こちらを見ていた鮎沢さんと目が合ってしまいパッと顔を背けた。

いちいちこっちを見ないで欲しい。
アナタに構っている場合じゃないから。

「…いえ、なんでもありません。
 父の事、宜しくお願いします」

「意味深で気になるんだけど」

「気にしないでください。
 答えるつもりもありませんので。」