わたしの言い分を聞き終えた彼は
何か考えている様子で暫し沈黙を挟み
『確かに…』と口を開いた。

「詳細なんてほとんど聞かないまま
 僕は2つ返事をした。
 まぁその目的が仮に買収であったとしても
 僕自身に何かメリットがあるわけじゃないんだけどね」

「どういう事?」

「信じて貰えないかもしれないけれど
 僕は父の“駒”でしかないから。
 言われた事に従っているだけ」

聞いて驚いた。
“駒だから従ってるだけ”って
何、それ…

「自分の父親なのにそんな事って…」

「“父親”だから。
 息子は良いように使えるんだと思う。
 いろんな家庭環境があるからね」

なかなかショックな内容のはずなのに
あまりにサラリと開き直っているから
『本当にそれでいいの?』も返せなくなった。
むしろどんな言葉が正解かわからない。

「今は少し気持ちの変化があって
 この婚約も悪くないと思ってる」

「気持ちの変化…?」

「緋奈星さんに興味が沸いたのは事実。
 一見、大人しそうに見えるのに
 実は結構強気なんだってわかったからね。
 それに仕事熱心みたいだしさ。
 ジュエリーの勉強してたでしょ?
 そういうところも含めて、もっと知りたくなった」

そう言ってまたニコニコと笑顔を向けてくる。

そんな《《後付け》》みたいな口実されてもな…
本当、読めない人。