注文していた料理が運ばれてきて
彼はミネラルウォーター、わたしはカクテルを
それぞれ“乾杯”とグラスを交わす。
こんなデートみたいなの
燈冴くんとすらした事ないのに…
どうしてわたしの目の前にいる人は鮎沢さんなんだろう。
考えてしまうと気持ちが沈むな…
お肉料理にナイフを入れようとした手を止め
わたしは自分の事を話す前より先に彼に質問した。
「鮎沢さんは…
どうしてそんなに平気なんですか?」
「平気?」
「いきなり顔も知らない相手との婚約を簡単に受け入れられるなんて…わたしにはやっぱり意味がわかりません。何かアナタに得があるんですか?」
「得…か」
向ける笑顔に応えようとしないわたしに対し
彼はようやく真面目に話を聞く気になったのか
同じくナイフをテーブルに置いて真面目な表情で耳を傾けた。
「政略結婚が決まった事に以前あなたは”気にしない”と仰っていましたが、すぐに『いいですよ』と納得したんですよね。つまりその返事が出来るくらいに、この会社を買収する余程の価値があるんですね?」
疑問を口にしながら
正直わたしの心臓は痛いくらいドキドキしていた。
“乗っ取るほどの価値”
そんなの身内が冷静な気持ちで聞くなんて到底無理。
だけど何を企んでらんいるのか知りたかった。



