「お父さん!」
ズカズカとノックもせずに社長室の扉全開に乗り込むと、先約だった男性社員はポカーンと口を開けて呆然とし父からの鋭い眼差しと目が合って、気まずい感じに…。
やっちゃった…
仕事の話をしていたようで
もの凄く悪いタイミングだったらしい。
「お前、何をしている」
父は眉間に皺を寄せ不機嫌MAX。
男性社員も苦笑いを浮かべて『席を外しますね』と気を遣って社長室を出て行ってしまった。
邪魔をした事はあとで説教を受けるとして
今は本題を優先しないと。
「鮎沢さんという方と先程会いました。
婚約ってどういう事?
何も聞いてないんだけど」
気を取り直して単刀直入に要件を伝えると
身に覚えるのある事柄だからか
ピクリと眉を微かに動かし『そうか…』と溜め息を吐いた。
「ここに来るのは明日だと聞いていたんだがな…
そうか、先に会ったか」
父の様子から
今日わたしが彼に会う事は想定外だったというのは本当みたい。
明日であれば”夜に話すつもり”は納得だから。
「彼は…誰?
どうして急に婚約なんて…」
「とりあえずそこに座りなさい」
父は仕事の手を止めソファに移動するから
わたしも大人しく言う事を聞いて正面に腰掛けた。
「芹斗くんは取引先の社長のご子息だ」
そしてわたしは
父から真実を聞いた。



