無彩色なキミに恋をして。


思わず手を伸ばして呼び止めてしまったのは
それ以上、離れないでほしいと思ったからなのに。

「帰って…くるよね?」

それしか言えなくて。
振り返って哀しげに微笑む彼の表情が
『約束は出来ない』

そう、言ってる気がして
掴もうと伸ばしたその手をスッと下ろしてしまった。

“本当の事“を知るのが怖い。

燈冴くんはどこに行ってしまうの?
いつ帰ってくるの?

もう帰ってこないかも、なんて…
言わないよね?


胸騒ぎが確信になりそうで口に出して問えないまま翌朝を迎え、案の定どこにも燈冴くんの姿はなく『今朝早くに出ていった』と父の一言に意気消沈した。


そこに燈冴くんがいないだけで
”いつもの朝”とはガラリと一変。
『おはようございます』が聞けなくて
彼が用意してくれた朝食が食べられなくて
ただそれだけなのに、全然違って思える。
毎日一緒に暮らしていた8年の月日が
どれだけ当たり前に感じていたのかって痛感させられる。


「あと1週間、か…」

会社のデスクに座る度、目に入る25日に小さく丸印を付けた卓上カレンダーに溜め息が零れた。

燈冴くんにプレゼントを渡したりしてクリスマスを過ごすのが、毎年の恒例だった。
今年は出来ないのかな…って、ちょっと感傷的。