普段厳しい父が『少し落ち着きなさい』と
燈冴くんをなだめるくらいだ。
余程の何かがあったように思えて
わたしまで妙な緊張感に不安を掻き立てられ
もう少し詳しく知りたい…と、また扉に耳を近付けてみると、思った以上の緊迫感がドア越しに伝わってきた。

『燈冴くんの気持ちはわからないわけではない。
 だがしかし、今回は状況が違う。
 しっかり向き合ってくるべきじゃないのか?』

『ですがッ!』

説得に似た父の言葉に燈冴くんからの反応は良くなかった。
常に物事を冷静に考えて判断する彼が真っ先に否定の言葉を口にするなんて、切羽詰まっているのは本当みたい。

『…わかりました。
 《《あの人》》と、会ってきます。
 話し合いになるかはわかりませんが…』

結局、燈冴くんが折れた形で”仕方なく承諾”と
事態を収拾したように聴こえるけど…。
中の2人にしかわからない会話だから他の詳細も意図も見えないまま、とんとんと話が進んでいく。
最後の方で突然彼から『緋奈星さまには…』と名前があがり。

『この件は、緋奈星さまには内緒にして頂きたいです』

『直接、自分の口から話します』と約束を取り付け
それに対し父も承諾したであろう返事を最後に
2人とも声が聴こえなくなった。