このまま
どういう顔をして向き合っていたら良いのだろう。
わたしはソファに腰掛けたまま彼は絨毯の上で片膝を付いた状態で、重たい沈黙になるかと思っていたけれど、燈冴くんはいつも通りの穏やかな優しい表情に戻りわたしに微笑み掛けてくれた。
「私を避けていた理由がそんな事で良かったです」
「そんな事ってッ」
とても大事な理由なのに、と言いそうになったけど
軽々口に出しちゃいけない気がして複雑な気持ちがモヤっとしながらも
胸の内に抑え込んだ。
「私にとっては“その程度”の事なんです。
緋奈星さまに嫌われるほうが、余程…。
…ですからホッとしました。
不要だと思われてしまったらと思うと
気が気じゃありませんでしたから」
「不要だなんてッ!
…ごめん、誤解させて…」
感情的になりそうなのをグッと堪えて
今はとにかく冷静さを意識して謝ると
燈冴くんは伏し目がちにまた意味深に呟いた。
「…いえ。
誤解…ですしね」
たったその一言なのに妙に引っ掛かったのは、なぜだろう…
何か隠しているように思えて違和感が残る。
「先程の話、ですが…
大切にされているのは私の方です。
だから毎日ここにいられて幸せなのです」
「燈冴くん…」
「それに、仕事でしたら…」
片膝の状態からスッと立ち上がり伸びてくる右手。
「あんなキスは、しませんよ」
そう言いながら
わたしの頬を掠め、下唇をなぞった――――



