「それって…」
「昔は、何が楽しいのか嬉しいのか
そういう感情を持たなかった。
けれど暗く闇に閉ざしていた心を
社長である貴女の御父上が…
救ってくれた」
わたしの問いに答えてくれようとしているんだと思うけど、それなのに核心には触れなくて、曖昧に意味深な言葉ばかりを口にする。
けれど”救ってくれた”って
以前に聞いたときは”拾ってくれた”だったはず。
それに恩返しって?
聞けば聞くほど謎が深まる。
燈冴くんがお父さんの元で働いている本当の理由って…
「過去に…何かあった…?」
なんとなくだけどそんな気がして
ううん、それしか考えられなくて。
暗闇の中、見えない糸を手繰り寄せて
見つけた答えの先に待っているモノは
知ってはいけない”真実”に思え…
少しだけ、怖くなった。
質問を口に出してしまったけれど答えを聞く勇気がなくて、わたしは咄嗟に『ただの思い過ごしだね』と、なかった事にしてしまった。
きっと燈冴くんは察したに違いない。
「いえ…
《《その件は》》また今度、ちゃんとお話しします」
そう言って、聞き入れてくれたから。
表情に影を見せる燈冴くん。
お互いの誤解が解けたはずなのに
全然、霧が晴れた感じがしない。
聞かれたくない、踏み込んではいけない領域に
土足で入ってしまったんだ。



