それは時間にして、ほんの二、三秒の出来事だ。けれど、すっぽりと包み込んでくれた温もりが離れていくことを酷く寂しく感じ、サリーシャはぼんやりとその場に立ち尽くした。

──わたくしは、あの人に包まれることが、心地よいのだ。

 それに気づいてしまうと、一人ぼっちの部屋が酷く寒く感じた。ブルリと身を震わせると、部屋に入りガウンを肩にかける。けれども、その肌寒さが解消されることは、一向になかった。


***


 翌朝は爽やかな快晴だった。青空にはところどころに白い雲が浮かび、太陽が燦燦と輝き大地を照らしている。
 可愛らしい小鳥のさえずりに目を覚ましたサリーシャは、ベッドから起き上がると真っ先に窓際に駆け寄った。カーテンを開けると、部屋の中に明るい光が差し込む。その明るさに少し目を細めながら外を眺めると、飛び込んできたのはこの景色。

「まあ、快晴だわ」

 思わず口から零れ落ちたのは、感嘆の声だった。きっと、とっても素敵なお出かけになる予感がする。
 クラーラとノーラに相談して選んだピンク色のシンプルなワンピースは、若い娘が街を歩いていても全く違和感を感じさせないながら、上品さを感じさせるデザインだった。襟元は最近王都でも流行だった、Vネックだが、背中は上まで生地で覆われているため、背中は見えないようになっている。