セシリオはそれを聞き、複雑な心境だった。ブラウナー元・侯爵は先の戦争で巨万の富を手にいれたはずなのに、十年も経たずに使い果たしたことになる。
 人間、一度贅沢に慣れるとなかなか生活水準を落とすことは出来ない。だからこそ、なんとしても金と権力を手にしたかったのだろう。
 たとえそれが人を殺めることに繋がったとしても。

「それで街道だがな、確かに俺もあの道のりを実際に往復して、整備しなおす必要があるとは感じた。街道が整備されてダカール国と貿易が盛んになれば経済効果や政治的な恩恵もあるしな。だが、こちらにも条件がある」
「条件?」
「もっと王都に来い。そうだな、最低二年に一回は王宮の舞踏会に参加しろ。それが条件だ」
「──いいでしょう。元より、サリーシャが少女時代を過ごした王都に行きたがると思ったのでお願いしたまでです」
「サリーシャのため?」
「それも、理由の一つです」

 そう言って紅茶を一口飲んだセシリオを見て、フィリップ殿下はふっと表情を緩める。

「お前たちは本当に、お互いのことが一番なのだな。サリーシャの望む褒賞も、アハマス卿を一番に考えたものだった」
「サリーシャの? エレナ様と同じドレスではないのですか?」