「今日から高校二年生だ。人生の進路を決める大事な一年になるんだぞ。今までみたいにのほほんとしていたらだめだ。気を引き締めるように!」
 つばを飛ばしながら、担任教師渡部が息巻く。ワイシャツのボタン、腹部の辺りに横向きに引きつれるようなしわが入っている。今年一年この腹を毎日見ないといけないのか。そう思い、美葉(みよ )はため息をついた。
 担任の言葉が終わるか終わらないかのうちに、「きりーつ!」と健太(けんた )が声を上げた。日直ではないはずだったが、全員がだらだらと立ち上がり、「礼!」というかけ声とともに頭を下げる。担任は不服そうに口をへの字に曲げたが、黙って荷物をまとめて教室を後にした。
 「健太、ナイス強制終了!」
 (れん )が健太の首に腕を回す。ツーブロックの髪の頭頂部が不自然に盛り上がっている。健太はエラ張り顔ににんまりと笑みを浮かべた。ワックスで強制的に外ハネの束を作っている。ハリネズミみたいだと美葉は思う。
 「うっせーんだわ、わたべーの説教!つば飛ばしすぎだっつーの!」
 そう言って、ゲラゲラと豪快に笑う。健太も錬も、髪の色が奇妙に黒い。昨日までブリーチで金色に染めていた髪を、強引に黒く染め治したためだ。強制的に染めた黒は数日もすると色あせし、明るい茶色になる。そして必ず、風紀担当の教師に説教をされる。中学生の頃から、長い休みが明けるたびに繰り返されてきた光景だ。
 進歩しないな。
 美葉は二人にちらりと冷めた目を向け、鞄を持って立ち上がる。
 急いで帰らなければ。今日は始業式だけだから、手際よくノルマをこなせばその分勉強がはかどるはずだ。
 この一年がどれだけ重要なのか、この高校で理解しているのは自分だけなのだと思う。二年生の間にどれだけ偏差値を上げられるかで、手が届く大学の名が大きく変わる。
 『美葉は頭がいいのね。お母さんの自慢だわ。できたら大学に通わせてあげたいけど、家はお金がないから公立の大学しか行かせてあげられないの。頑張って勉強してね。』
 満点の答案を見せるたび、母が満面の笑顔を浮かべ、頭をなでてくれた。
 一昨年の選択が、母との約束を難しくさせることは分かっていた。でも、そうせざるを得なかった。だからといって、母の期待を裏切るのも嫌だ。だから、すべてを手際よくこなしていくしかない。
 教室のドアに向かって動かそうとした足を、のんびりとした声が引き留めた。
 「陽汰(ひなた)だけクラス分かれちゃったねー。」
 ぽっちゃりとした白い顔に人なつっこい笑顔を浮かべ、肩まで伸ばした天然のウェーブの髪を揺らして佳音( かのん)が美葉の隣に立つ。そうだね、と美葉は気持ちが乗らない返事を返した。
 「まじあいつついてねー。2クラスしかねぇのになー。」
 健太と錬が肩を組みながら歩み寄ってくる。
 「友達出来るといいけどな。」
 錬が、ふと真面目な顔をしていった。佳音は、錬と目を合わせて小さく頷く。
 「あ、噂すれば陽汰だ。おーい!」
 佳音が廊下側の窓に向かって手を上げると、前髪で両目を隠した小柄な少年が立ち止まる。
 この高校には普通科が二クラスしかない。普通科のほかには花卉栽培が盛んな町らしく園芸科が一クラスある。一学年三クラスしかない非常にコンパクトな高校なのだ。
 当別町は札幌市に隣接する町である。札幌市に隣接する他の街、江別市や北広島市などが都市として発展しているのに比べ、田園風景と山林に囲まれた非常にのどかな町だ。そんなのどかな町の、進学校とはほど遠い町内唯一の高校に、美葉達は通っている。
 陽汰は、面倒くさそうに四人のもとへ歩いてくる。なんで声をかけるんだとでもいわんばかりの雰囲気を漂わせている。そんな陽汰の首を健太が無理矢理抱え込む。
 「陽汰ー、寂しかっただろー?。」
 「別に。」
 ぽつりと陽汰がつぶやく。
健太は背が高く、幼い頃から家業である農業の手伝いをしているだけあって体格がいい。錬は痩せ型でひょろりとしているが健太と同じくらい背丈がある。陽太の背丈は美葉や佳音よりも頭一つ低い。その三人が肩を組んでいるのはとてもアンバランスに見える。
 「さー、これから家来るベ?練習練習!今年は新人発掘オーディション系、総なめにすんぞー!!」
 健太が二人を引きずるように歩き出す。錬が「うぇーい!」と軽く自由な方の手を挙げた。
 三人はバンドでプロのミュージシャンを目指している。まだ無邪気に夢を追うのかと、よたよたと左右に揺れながら歩く後ろ姿を見送りながら美葉は思った。
 「私も帰るね。」
 軽く息をついて、佳音に告げると美葉は歩き出した。
 自転車置き場に向かう足が自然と早足になる。何人もの同級生の間をすり抜け、自転車置き場に着くと先に歩き出していたはずの健太たち三人と一緒になった。
 「美葉、足はやっ!」
 健太が茶化すようにいう。美葉は健太を一瞥したが、何も答えず自転車をこぎ出す。
 「美葉は忙しいからなー。」
 錬のいたわるようなつぶやきが耳に届いたが、風といっしょに受け流した。
 自転車をこぎながら、家に帰ってからの段取りを反芻する。
 洗濯物を取り込んで畳み、店の商品のチェックをして、必要なものを発注する。掃除をして陳列を直す。表の自動販売機の在庫確認と補充もしなくては。閉店後にレジを確認し、帳簿をつけると店の仕事は終了だ。店のことが一通り終わったら食事の準備。必要なものがあれば買い物に行かなければ。食事を済ませ、後片付けをして、風呂に入り、風呂の掃除をする。それらを段取りよくこなせば、今日はいつもより多く参考書を解くことが出来るだろう。
 自然と、ペダルをこぐ足に力が入る。
 四月の風はまだ冷たい。
 国道275号線を渡ると、突然田園風景に変わる。遮るものがないから、風は一層強くなる。麦畑の雪は融雪剤のおかげで解け、茶色い土が除いているが、道路の両脇にはまだ雪の山が残り、排気ガスで黒く汚れている。雪解けの田んぼには白鳥が群れをつくっている。くちばしを泥の中に突っ込み、しきりに何かを食べている。シベリアに渡る白鳥たちが、雪解けの頃こうやって羽を休めにやってくるのだ。白鳥の姿を見れば、春がやってきたのだと、辛い冬がやっと終わったのだとほっと息をつく。
 後ろから、健太たちの賑やかな声が聞こえる。どうやら、健太と錬が追いかけっこをしているようだ。帰り道が一緒だから、結局いつも一緒に帰ることになる。美葉は肩をすくめた。
 雪解け水がいくつも水たまりを作っている。水たまりは青く澄んだ空を映し出している。自転車の車輪に引き裂かれても、やがて何事もなかったように水面を平らに戻し、何食わぬ顔でまた空を映し出す。
 緩やかなカーブをいくつか超えると、信号のない交差点が見えてくる。平屋建ての校舎の赤い屋根が目に飛び込んでくる。美葉たちの母校だ。
 小学校には、人の気配がない。美葉達5人が卒業したと同時に、廃校になったのだ。
 小学校と道を挟み、寄り添うように四角い二階建ての建物が建っている。経年劣化でやや汚れた白い壁にオレンジ色のペンキで「谷口商店」と書かれている。商店の横にはツタが張り付いた古いサイロが建っている。そのサイロの横に美葉は自転車を止めた。
 「また明日!」
 口々にいい、健太と錬は小学校と商店の間の道を右に曲がり、佳音は左に曲がっていく。少し遅れて陽汰が小さく片手を上げて右に曲がって行った。
 四人と分かれると、途端に耳が静寂を感じる。どこかで白鳥の鳴く声がする。見かけによらず、鳴き声は美しくない。
 自転車のカゴから黒いリュックサックを取り、サイロを回って店の裏に向かう。洗濯物が干してあるのが見える。一瞬、雨にぬれている洗濯物のイメージが浮かぶ。振り払うように、片端から洗濯物を取り込んで抱え、商店の裏から中に入る。商店の裏は美葉の家の玄関となっているのだ。靴を脱いで中に入る。鍋が煮立ち、鍋からの蒸気が部屋を満たしているような気がする。頭を大きく振って幻想を打ち消し、絨毯の上に広げた洗濯物を畳んでいく。
 衣類をタンスにしまい、冷蔵庫の中身をチェックすると、店に向かう。居住スペースと店を仕切っている磨りガラスの戸を開ける。
 谷口商店は、この地区の唯一の商店として、食料品、日用品、文房具、衣料品などありとあらゆるものを置いている。簡易郵便局としての機能も有している。今は老人ホームで暮らす祖父母が切り盛りしていた時代は、日々の必需品を届ける重要な役割を担っていた。しかし、今では自転車でもいける距離にスーパーが出来、存在価値は薄れてしまった。
 「よー、美葉ちゃん!」
 レジのカウンターに肘をかけたまま、中年の男性が片手を挙げる。土汚れのついたカーキ色の作業着に身を包み、ニット帽をかぶっている。ニッと大きな口で笑う。息子の健太と本当によく似ている。
 レジのカウンターの奥に、力ない顔の父和夫(かずお)が座っている。その覇気の無い顔を見るたびにいらだちが募る。
 「美葉ちゃん、学校、今日はもう終わりかい?」
 「今日は、始業式だけだから。健太たちも、もう家に着いてるんじゃない?」
 美葉は菓子パンを並べ直しながら答える。健太の父伸也(しんや)の舌打ちが聞こえた。
 「っちゅうことは、またあのやかましいの始めるんだな。」
 伸也は、息子たちのバンド練習を快く思っていない。やめさせようとは思っていないが、彼らの音楽を「いいもの」とは認めていないようだ。この父子は顔だけではなく性格もよく似ていて、瞬間湯沸かし器のようにすぐかっとなる。おまけに喧嘩を始めると声が大きい。隣とはいえ歩いて5分はかかるのでさすがに怒鳴り声が聞こえることは滅多と無いが、反応して遠吠えをする番犬の鳴き声が聞こえてくる。
 菓子パンを並び終え、顔を上げると、伸也が手にしている回覧板の手提げ袋が目に入った。
 「回覧板、持って行くね。」
 美葉は、手提げ袋を指さした。誰かの手作りらしい、戦隊もののキャラクター柄の手提げ袋には、今年東京に就職した子の名前がマジックで書いてある。
 「今月から、回覧板を回す順番が変わるんだ。」
 手提げ袋を渡しながら、伸也が言う。
 「へぇ、めずらしい。」
 手提げ袋の中から、広報とうべつを取り出し、バインダーの中身をチェックしながら美葉が答える。転入出のほとんど無い地域だけに、回覧板を回す順番は物心ついたときから変わっていないと思う。
 「小学校の体育館に、男が引っ越してきたんだと。」
 「体育館に?」
 これにはさすがに、和夫も体を起こして関心を示した。
 「体育館に住むなんてできるの?」
 考えただけでも、寒くて凍えそうだと美葉は思った。
 「体育館の二階に宿直室があるだろ。そこに寝泊まりして、体育館で何か起業しようとしているらしい。先月からいるはずだけど、気がつかんかったかい?」
 そういえば、と美葉は思った。美葉の部屋は2階の、体育館を見下ろす場所にある。3月末、明かりがついていることが何度かあった。点検か何かだと思っていたが。
 「三月の初めにすごく吹雪いた日があったしょ。健太を迎えに車を出したらよ、猛吹雪の中人が歩いたんだわ。轢かれて死んじまうぞって声かけて、とりあえず乗っけてやったわけ。行き先を聞いたら、小学校っていうじゃねぇか。何しに行くのよ、って聞いたら、これから住むんだとぬかしやがる。しかも、なぜか後生大事に椅子を抱えてたんだよ。」
 ……椅子?」
 「そう、それも、立派な…。ダイニングチェアーとかいうやつかい?飯食う時に座る椅子。結構立派で、重たい椅子だったなぁ。」
 「そんな椅子を持って、吹雪の中歩いてたの?」
 行動の意図がわからず、美葉の背筋はぞっと凍り付く。得体の知れない人物が、知らない間にすぐそばに住んでいたなんて。
 「だから、今月から回覧板は小学校の体育館に持って行くこと。」
 「え……。」
 美葉は手提げ袋を体から離して顔をしかめる。まるですでに手提げ袋の中におぞましいものがはいているようだ。ちらりと和夫の顔を見る。和夫は話を聞いていなかったようだ。相変わらず、上の空である。
 娘にそんな得体の知れない人のところへ行けというかな。普通。
 そう考えてから、ため息をつく。
 期待するのはやめたのだ。時間の無駄だ。さっさと終わらせて、やるべきことをこなしていかなければ。
 「なんなら健太に行かすかい?未来の旦那にさ。」
 健太の父の言葉に肩をすくめ、歩き出す。健太の嫁に、というのが伸也の口癖なのだ。
 「どこか引っかけられるとこにかけておくから大丈夫。」
 そう言い残し、店のドアを開けた。

 道を渡って、小学校の敷地に入る。
 何年ぶりだろう。卒業してから、一度も入っていない。自分が通っていた頃は、子供たちの笑い声でうるさいくらいだったし、毎日チャイムの音や校内放送の声が聞こえた。人気の無い校舎は寂しく、少し不気味で、できるだけ視界に入れないように、存在を感じないようにしてきたような気がする。
 正門をくぐると、二宮健次郎の像が建っている。元々は校舎の裏手にあったのだが、閉校と同時に門のそばに移設された。校歌の歌詞を刻んだ閉校記念碑が二宮健次郎像の前に建っている。子供達に夜中の二時になると勝手に歩くだとか根も葉もない噂を立てられて、さぞ迷惑だっただろう。
 二宮健次郎のすぐ横に、体育館の入り口が見える。焦げ茶色の板張りの壁にクリーム色の引き戸が目立つ。恐る恐る近づく。引き戸の向こうは薄暗い空間。窓の明かりが差し込んではいるが、中の様子はうかがい知れない。
 美葉は気配を消しながら、入り口の引き戸を観察した。手提げ袋を引っかけることができる場所はどこにもない。雪解け水で濡れてしまいそうで、地面に置いておくのも気が引ける。引き戸に手をかけてみたが、鍵がかかっているようだった。
 誰もいないのかな。
 美葉は体育館の入り口から少し離れ、どうしたものかと考える。そして、体育館の窓から中を覗いてみようと思いつき、体育館を回り込むように歩を進めた。屋根から落ちた雪山と体育館の壁の間に人が一人通れる位の小道が出来ている。壁にへばりつくような体勢で中をのぞき込みながら進んで行く。体育館の中はがらんとしている。ただ、窓のすぐそばに四角いテーブルのようなものが見えた。暗くて詳細が分からない。つま先立ちになり、目をこらすと、向かい側の窓の下に椅子が一脚ぽつんと置かれているのが見えた。あれが、吹雪の中後生大事に抱えて運ばれてきた椅子なのだろう。
 人の気配を見つけられないまま、体育館の裏手にある大きな蝦夷赤松の木に突き当たる。体育館の影から顔だけを出して校庭の方を覗くと、松の木の方に男が歩いて行くのが見えた。
 男は、足音を立てないように気をつけているのか、雪を踏みながらゆっくりと歩を進めている。なにかを凝視している。その視線の先を探ると、目の前の蝦夷赤松の木につがいの島柄長が停まっていた。しかし、次の瞬間には飛び立ってしまった。男性はため息をつき、見送っている。そのまま、しばらくその場に佇ずむ男の姿を美葉は警戒しながら見守っていた。邪悪な、自分を脅かすような気配を感じたらすぐ、逃げ出すつもりだった。
 すると、男の影がぐらりと揺れ、ゆっくりと後ろ向きに地面に倒れていった。
 美葉は驚き、手提げ袋を駆け出した。
 横たわる男の顔は口元まで伸びた前髪と無精髭に覆われていた。頬は痩け、唇はカサカサに乾いている。肌に生気が無く、死んでしまっているのではないかと思った。
 「だけどまだ、約束を果たしていないんだ・・・。」
 乾いた唇を微かに動かし、うわごとのように男性がつぶやく。
 生きてる。
 美葉は安堵した。
 「約束?」
 美葉は男性に向かって問いかける。意識を失えば、そのまま死んでしまうかもしれないと思ったからだ。
 「もしもし?」
 美葉はもう一度声をかけた。間が抜けている声かけだと思ったが、こんな時にどんな言葉をかけていいのか分からなかった。
 「大丈夫ですか?もしもし?」
 男性の痩せこけた頬に手を触れると、ぞっとするほど冷たい。
 男性は、美葉の声に反応しうっすらと目を開けたが、すぐに閉じてしまった。しかし、唇の端が持ち上がり、締まらない笑みを浮かべる。
 笑ってる!?キモッ!
 美葉は頬に当てた手を反射的に引っ込める。でも、このまま放置して死んでしまっては困る。これから一生、窓の外を見られなくなる。隣で死人が出たなんて、そんなの絶対に困る。
 「ちょっと!!しっかりして!!」
 美葉は男の肩をつかんで揺さぶった。男の頭が上下にガタガタと揺れ、顔半分を覆っていた長い前髪がゆさゆさと揺れた。男ははっと目を覚ました。
 バチクリ、と何度か瞬きをした後、美葉を見て、慌てて自力で起き上がった。美葉の姿をまじまじと見つめながら、ゆっくりと雪の上に正座をする。身を乗り出すように、男は美葉を見上げた。
 「どちら様ですか。」
 男は美葉に訪ねた。
 「はぁ?」
 と美葉は首をかしげてから、そういえばここは男の家であり、不法に侵入しているのは自分であることを思いだした。
 「隣に住んでいる谷口美葉です。回覧板を持ってきました。」
 そう言って、ぺこりと頭を下げた。
 「おお!」
 今度は男が体をのけぞらして驚いた。
 「そういえば、引っ越しの挨拶を忘れていました。隣に引っ越してきた木全正人(きまたまさと )といいます。よろしくお願いいたします。」
 正人という男は、正座をしたまま深々と頭を下げる。毒っ気がなく、礼儀正しい姿に脱力してしまう。
 「よろしくお願いします。」 
 美葉も頭を下げた。
 「お茶でも、といいたいところなんですけど、水道水ぐらいしか提供できるものがなくて…。」
 男は立ち上がったが、すぐにふらついて松の木の幹に手をついた。
 「二週間ほど、何も食べていなくて…。あ、昨日蕗の薹見つけて食べたんですよ。でも、空きっ腹にあくが強いもの食べたらおなかがびっくりしたみたいで、下痢しちゃって。」
 はは、と正人が乾いた笑いを浮かべる。
 この人、このままだと確実に死ぬな。
 どうしていいのか分からず、美葉も同じくはは、と笑い返した。