「先輩、まってください!」


 私の言葉を聞かず、先輩は自転車に跨がる。

 片足をペダルに乗せ、顔を進行方向に向けたまま私を見てない。

 寂しそうな表情の先輩が、顔を背けたまま私に言う。


「中学生の時の面影がないくらい、すっかり変わったな」


「そうですか?」


「すごく……」


「すごく? なんですか先輩?」


「美人になった……」


「えっ……」


 思ってもいなかった言葉を聞いて、私の心臓がドキドキしてる。

 横顔を見せる先輩の頬も、赤く染まっていた。

 恥ずかしくて言い出せず、背中を向けてるなんてズルイよ先輩!

 最後に思い切って話した言葉が「美人になった」だなんて、嬉しすぎる!


「もしよかったら、私は先輩と……」


「俺は、行きたい大学に向けて頑張ってる。そこは、思いっきり走れる環境だ」


 顔を背け、また言葉を断ち切ってくる。

 そして、先輩の熱い気持ちを私にぶつけてきた。


「合格できるように頑張りたいけど、二つ同時に一生懸命になれない。まずは目標の大学に進む……」


「そうですか……」



「でも、無事に合格できたら……」