急いで手鏡とリップを鞄に放り込む。


 横長のベンチ椅子なのに、真ん中で堂々と座り込んでいるのに気づく。

 私は横に移動して「こちらへどうぞ」と言いながら作り笑顔。


 ふと横目で椅子の上を見ると、雑巾しぼりで残念な姿になってる紺ハイソが置かれていた。

 白目になった私は、急いで紺ハイソをつかみ取り鞄に放り込んで知らんふり。


「とつぜんゴメン」


 自転車のスタンドを立て、申し訳なさそうに話ながらアクリル版の風防の中に入ってきた。

 のはいいけど、椅子に座らないで立っている。


「私の横でよければ、構わずにどうぞ」


「でも俺、すごく濡れてるから迷惑じゃね?」


「迷惑どころか、すごく……」


 すごく、いい筋肉ですね! って言いそうになって、言葉を断ち切った。

 セーフ……

 ……でも、私の目線がアウトだったかも



 などと思いながら、びしょ濡れの男子を横目で見つめていた……