「うぉぉぉぉぉーっ!」


 叫び声のようなものを聞いて、私は体の動きを止めた。

 こんな雨の中、気のせいかなと思いつつ耳を澄ましてる。

 鏡を見つめながら唇にリップを塗っていた、次の瞬間。


 キキィー! ギリギリ、ゴゴォー! キィィー!


「えっ、自転車のブレーキ?」


 私は呟きながら顔を上げ、視線を鏡から目前に移動させた。


「えっ、ええっ!」


 目の前に、びしょ濡れの男子高校生。

 学生服姿で自転車にまたがったまま、私を見つめてる。


 髪の毛先や顎から滴り落ちる水滴、濡れたYシャツが透けて地肌に張り付き……

 割れた腹筋が6パックで、胸や肩も整った美しい筋肉美が露わに……

 目のやりどころに困るというか、あまりにも突然で、リップと手鏡を持ったまま見つめてしまった。


「雨宿り、させてもらってもいいかな……」


 嫌みのない優しい笑顔で、男子高校生が私に話かけてくる。


「どっ、どどどどうぞ……」


 私は動揺して、口ごもってしまう。

 すると彼は、私の言葉に笑顔を返してきた。



 でも、その笑顔に私は見覚えがある……