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「やんちゃだ」とか「おちゃらけだ」とか「ふまじめだ」とか、そんな喩え方をされることが多い彼だけど、実はけっこうまじめで、先生から本気で怒られてるところは見たはない。

からかわれてもさらりと応え、からかっても悪ふざけは絶対しない。
クラスの中心でいつも楽しそうに笑ってる、そんな男の子だ。


そんな彼は、スポーツ大会の種目決めの時、なるべく早く決まるように「なんでもいいよ」と笑った。本当になんでもいいんだと思う。

でも本当は、たぶん、ソフトはあまりしたくないんじゃないかなあ。

なんて、ぼんやり教室の真ん中を見つめてると、体育委員が「ほろちゃんは何でもできるよねー?」なんて声をかけてきた。


教室の全員の視線が一斉にこっちに向く。騒がしかったのに、途端に静かになってしまった。

こういう空気は、苦手だ。

それが自分に向けられてると思うとなおさら。


「あ…えっと」

「ほろちゃん体育の成績もいいし、運動神経いいもん。余ったやつで平気だよねー?ソフトなんだけどー」


ど、どうしよう。自信ない。


「……」


何か言わなきゃ。そう思ってるけど、声が出ないような気がして口を開くのがこわい。

みんな見てる。


「聞いてるー?」


体育委員らしい、はつらつとした女の子。だけどちょっと派手で、あまり話したことがない。大きな声でしゃべってくれてるからもちろん聞こえてるけど、聞こえてないと思ってるのか近づいてくる。わたしが悪い。

心臓がバクバク鳴ってる。

視界の隅で、日葵が席から立ったのが見えた。


「ごめんゆり菜、茉幌、ソフト苦手だから違うのにしてもらってもいい?」

「え、そうなの?」


わたしが言うべきことを、日葵が言ってくれた。