そんな厚かましいことは聞けなかった。常盤くんも帰り支度をはじめてる。


「常盤くん」


金曜日の、下校時刻を知らせる鐘の音。わたしが何よりも大キライな音。

あの時も、この音が鳴り響いてた。


「ん?」

「あの、遅くなって、ごめんなさい」

「え、」

「これ、肩に貼って」


いつも赤いハンカチに包んで持ち歩いてる絆創膏をひとつ、差し出す。常盤くんは驚いた顔をしてる。


「急にごめんね。体育の時引っかかれてたように見えて…」


体育着に血がにじんでいるのを見た。渡す機会はないと思ってたけど、ちょうどよかった。本当は話しはじめる前に渡せばよかったけど、緊張して渡せなかった。

でも、渡せた。


「ありがとー、露木」


笑ってくれた。

それだけで充分だった。


「じゃあ、気を付けて帰ってね」

「うん、また月曜日な」



たとえ金曜日が終われば2日間顔を見ることもない関係でも。うまく話せなくても。笑顔が曇って見えても。日葵の話ししか間になくても、わたしには、充分すぎる。


だけど常盤くんには何もできてない。

こんな片想いなんかに、きっと価値なんて何もない。


廊下にでると、ちょうどあの時の窓が視界に入った。そこから見える景色は、正門までの道と、あの桜の木と、それから町の夕焼け空。

ここで、常盤くんと目が合ったことがある。常盤くんはここにいて、わたしはすぐ下を歩いてた。



あの時、雨が止んでいなかったら──── わたしはきみに恋なんてしなかったのに。

わたしはいつも、いつも、後悔ばっかりしてる。


『また月曜日な』
恋しいよ、その日を迎えるのが。


後悔しても、もう、遅い。