「まいったな。未成年が相手じゃキツク出ることもできない」


その言葉にアリスはそろりと顔をあげた。


彼は相変わらず険しい表情を浮かべているけれど、相手が学生だとわかって少し気持ちが和らいでいるみたいだ。


その様子に安心したとき、スーツの襟もとに髪の毛が落ちていることに気がついた。


アリスはハッと息を飲んでそれを見つめる。


たった1本の髪の毛。


物語の中では毛根がついていなければいけないとか、そういう細かな設定があったはずだ。


あの髪の毛には毛根がついているだろうか?


それとも、本当はそんなもの必要ないだろうか?


一瞬で様々なことを考えてごくりと唾を飲み込む。


「本当にごめんなさい。すごくカッコイイ人がいると思って、ついここまでついてきてしまいました」


アリスはもう1度深く頭を下げる。


褒められて嬉しくない人間なんてきっといない。


彼は険しい表情を緩めると「今回は許すけど、次はないから」と言った。


アリスは勢いよく顔をあげて「ありがとうございます!」と、もう1度頭を下げる。


よかった。


これで家や学校に通報されることはなくなった。