「特別な感情なんてないよ。朝美も俺が結婚してるのを知っているんだし、俺も患者としてしか見てな──」
「だったら、どうして引き離さないのよ!? 抱きついた彼女を」
思わず声を荒らげて涙で滲む視線を向けると、律貴は瞠目して口をつぐんだ。リビングがしんと静まり返り、空気が張り詰める。
「昨日、見ていたのか」
唇を結んでこくりと頷くと、律貴は納得した様子で私の背中にそっと手を当てた。
「誤解させてごめん。より子が思っているような、やましい事情は本当になにもないよ」
私を安心させるように落ち着いた調子で話す彼は、「ただ」と言葉を続ける。
「彼女は今、精神的に不安定になっている。俺にああしたのも、どうにかして気を鎮めたかったんだろう。患者の不安をできるだけ取り除くのも医者の大事な役目だ」
「……じゃあ、あれは治療の一環ってこと?」
まだ猜疑心を露わにして問いかけると、彼は私の目をまっすぐ見て首を縦に振る。
「そうだよ。彼女の病気を治すためなら、医者としてできることはすべてしてやりたいと思ってる」



