「ええ、できますよ。貸し出しは入院している方に限るんですが、ここで読むのならいくらでも」
「そうなんですね、よかった。次の検査まで時間が空いちゃって」


 ほっとした様子で微笑んだ彼女は、「ありがとうございます」とお礼を言って患者用のコーナーへと向かっていた。

 私もラベルを貼り終えた本を持って配架をしにいくと、本棚の後ろからなにやら話している声が聞こえてくる。


「ねえ、お姉さんって栄先生のアイジン?」
「えっ!?」


 ギョッとする女性の声と、私の心の声が重なる。思わず本棚の陰から顔を覗かせると、先ほどの女性と、長期入院中のあかりちゃんという小学五年生の女の子がいた。

 あかりちゃんはとてもおませさんで、私たちの恋愛話も興味津々で聞いてきたりする。おそらく今もなにか気になって話しかけたんだろうけど、アイジンって愛人のことよね? まさか……。


「この前、見ちゃったんだ~。先生の腕に掴まってたでしょ」
「違うよ、あれは転びそうになっただけ! りっくん……栄先生は、学校が一緒だったの」


 慌てて否定する女性の言葉に、激しく動揺しつつも確信した。彼女が朝美さんなのだと。