気を抜くとどろどろに溶けていきそうな理性を、なんとかとどめて思考を巡らせる。
律貴はどうしてこんなふうにするんだろう。私に欲情したの? 旅先という非日常感から、ただ夫婦っぽいことをしたくなっただけ? ついさっき、ほかの女の人と話していたくせに。
心の内から湧いてきた濁った感情に、初夜の甘い記憶が掻き消される。その瞬間、手に力がこもって彼の胸をぐっと押し返した。
「っ……ねえ、アサミって誰?」
息を吐き出すと共に、ものすごくストレートな質問が飛び出した。ほぼ無意識に口にしてしまい、直後に後悔するもすでに遅い。
キョトンとした律貴だが、すぐに思い至ったらしい。
「さっきの電話、聞いてた?」
「……さっきだけじゃなくて、病院でも噂を聞いた。〝りっくん〟なんて呼ばれてるらしいじゃない」
こうなったら全部吐き出してしまえと、少々棘のある口調で言った。
律貴はやはり心当たりはあるようで、「噂なんてされてるのか」と苦笑を漏らす。



