式場を出てからも複雑な心境で歩き続ける私を、彼が含みのある笑みを浮かべて見下ろす。
「また介抱しなきゃいけないかなと思ったけど、今日はちゃんとセーブしてますね」
「っ……そりゃ、こんな公の場で醜態はさらしませんよ」
あの日のことを思い出してドキリとしつつ、動揺がバレないようそっぽを向いた。しかし、彼の顔が耳に近づいてきて思わず肩をすくめる。
「恥ずかしい姿、僕には見せてくれたんですね。嬉しいです」
やや低めの声で囁かれ、ますます胸が騒がしくなった。
……もう、なんでこの人と話しているとこんなに調子を狂わされるのかな。円城さんに交際を申し込まれたときですらドキドキしなかったのに。
ふと数日前の図書室での出来事が蘇るとほぼ同時に、真面目な様子になった栄先生が話し出す。
「最近、あなたにやたら言い寄っている患者がいますね。足を怪我しているあの男」
今まさに脳裏によぎった彼の話題で、私は一度目を丸くした。
円城さんはあの日以来姿を見せないので返事をしていない。というか、私もまだ迷っているのだけど。
私の条件に合う人がようやく現れたのに、本当に彼でいいのかと漠然としたためらいがあるのだ。



