ジンクスは信じないし、今の言葉にもなんの根拠もない。しかし、彼女の声は穏やかなのに力強くて、不思議と本当にそうなるんじゃないかという気になってくる。
そして、なぜか腹黒ドクターの顔がぽんっと頭に浮かんだ。
なんでそこで出てくるのよ、私を大切にしてくれるのがあの人のわけないのに。
慌てて脳内の彼を掻き消していると、トキさんも頬を緩めて「そうかそうか」と頷く。
「まあ、末ちゃんはモテモテだろうし余計なお世話かね。あそこにいるハンサムな兄ちゃんも、ずっとあんたのとこ見てるし」
そう言ってトキさんが指差した出入口付近には、車椅子に乗った男性がいる。視線が合い、にこりと微笑んで会釈する彼を見て、私は目を丸くした。
アンニュイなパーマのかかった髪、一重の瞳で優しげな顔立ちのその人には見覚えがある。
半年ほど前に婚活で知り合った、五歳年上の円城さんという方だ。どうやら足を怪我したらしい。
人当たりのいい印象でノリもよく、付き合ってみてもいいかもしれないと感じたものの、子供についての考えが合わず断られてしまった。もう縁はないと思っていた彼と、まさかここで会うとは。