日本酒の銘柄やグロテスクな映画のタイトルなど、どれも私が好きなものだ。律貴も一緒に付き合ってくれて嬉しかったっけ。
でも、彼に直接好みを教えた覚えはない。何年も前に、図書室で司書仲間と話していた気はするけど……ってもしかして。
偶然それを聞いたからメモしていたんだろうか。私の好みを忘れず、いつか喜ばせるために? だとしたら、研修医時代から私のことを……。
はっとした瞬間、ぶわっと顔に熱が集まる。予想以上に一途だった彼に驚きが隠せない。
綺麗な字を見つめて呆然としていると、部屋の外から「より子」と呼ばれ、私は慌ててノートを元の場所に戻した。
初芽を抱っこした彼が、ひょいと顔を覗かせる。
「本、見つからない?」
「ううん、あったよ」
見つけたのは本だけじゃないけどね。と心の中で呟いて笑顔を返した。
私は嬉しいのだが、律貴にとっては隠しておきたいことだったかもしれないので内緒にしておく。
くすぐったい気持ちを抱いたまま家を出た。私は本を持ち、律貴はベビーカーを押してゆっくりと白藍までの道を歩く。
晴れ渡る空の下、花壇のチューリップやデイジーが一層鮮やかに見える。足取り軽く鼻歌を歌っていると、彼が不思議そうに言う。



