彼は手を握ったままベッド脇の椅子に腰かけると、私を見つめてひとり言のように呟く。


「今、こうやって話せているだけで十分だ。そばにいるだけでいいなんて綺麗事だって思ったけど、やっぱりそれが一番なんだな」


 なんだかしみじみとした調子の彼に、私は首を傾げる。


「どういうこと?」
「子作りのときしか抱けなくても、愛する人のそばにいたくて求婚したのは正解だったなってこと」


 数秒かけてその意味を理解し、目を見開いた。ゆるりと口角を上げる彼をまじまじと見つめる。


「愛、する、人……」
「さすがにもう勘違いしないよね?」


 律貴は苦笑を漏らし、身体を寄せて私の髪を撫でる。熱っぽく切なげな瞳に射抜かれ、鼓動がみるみる速くなる。


「俺は、より子がずっと好きだったから求婚したんだよ。子供が欲しいっていうのは建前で、それ以前にあなたが欲しかった。喉から手が出るくらいに」


 ──とびきり甘い真実が語られ、胸の奥からぶわっと熱い感情が込み上げた。

 うそ、あのときから……? まさか、彼が片想いしていた相手って、私!?