一那君と会ってから程なくして香菜を夕食に誘う。

出来る根回しはした。
だけど、不安になる。
ベストなのか・・・本当に抜かりは無いか?

どうして我が家は単純に話して祝える家族では
無くなってしまったのかと・・・そんな事を
考えながらチャンスを窺う。

あくまでも自然に・・まるで天気の話をするように
口にしなくては
そしてその時には一瞬の表情さえ見逃さないように
全神経を尖らせなくては。
今まで受けて来たどんな裁判よりも緊張し、胃が
キリキリと悲鳴を上げている。

その時は突然やって来た。
一瞬、会話が途切れた。
今だ!!

「柚菜に赤ちゃんが出来てね・・私もおじいちゃんだ」

「  え    」
「    そう、  柚菜が ママになるの    」

驚いてはいるがその目に苛立ちや、嫌悪感、憎悪は
浮かんでいる様には見えない・・・

「私もじいじだ   いや、じいじは年寄みたいだから
グランパって呼ばせようかな   」
「 プププ  グランパってパパのキャラじゃないでしょ!
止めてよ そんな事を真面目な顔して言うの  可笑しすぎて
お腹が よじれる~~~~  ハハハハハ   」
「お前は ”おばさん” と言われても良いんだな  」
「 あ、 イヤかも   」
「だろ??」
「 そっか~~~ 私もオバサンか~~~」

大丈夫だ 香菜の目は落ち着いている。
親の欲目なんかでは無い筈だ

「パパ、柚菜に直接お祝いを言いたい・・だから
柚菜の住んでいる家の住所を教えて」

やはり・・・  どうする???

「妊娠は病気では無いけれど実は悪阻が酷くてね
今も安定していないから先に電話なり、メールなりで
確認した方が良くないか?」
「勿論 そうするよ だけど体調悪いなら尚更 柚菜から
住所聞いたり手間を掛けさせたくないから、先に教えて!」

家族なら其々の住所を知っていて当たり前。
それが未だに知らなかったという現実を香菜は疑問に思わないの
だろうか?
いや、今は余計な事を言って折角安定している心に歪を与えるのは
得策じゃない。
「あとで、香菜に住所をメールするよ。
くれぐれも突然の訪問は止めなさい。悪阻でゲッソリ痩せてしまって
体力を少しづつ回復させている途中だからね」
「解っているって!!!」

大丈夫! マンションのセキュリティーは万全だと確認済み、
柚菜が1人で出歩く事も殆ど無い。
何より香菜の瞳が落ち着いている。