「貴女、私達 おじいちゃんとおばあちゃんになれる
みたいよ。」

仕事から帰宅した妻が玄関先で言葉にしたのは珍しかった
大事な話は何時も食後にお茶を呑みながら口にするのに。
それ程に嬉しかったのだろう。

私も脱いだ靴を揃えたか記憶に無い。

背広を脱ぎながらあれやこれやと話し続けるのは
久しぶりだ。

なんと妻は私が風呂に入っている時にも
話したりなかったのか脱衣場から話しかけてくる。
洗髪してシャワーを使いたいが妻との会話を遮るのも・・
1人泡まみれで苦笑する。

話し疲れたのか隣で寝息をたてる妻を感じながら
「俺も”じいじ”か いや じいじ じゃなく名前で呼ばすか?」
浮かれていた・・・
そして我が子を初めて胸に抱いた時を思い出し・・・
「  香菜・・・・・」

もし、この事が香菜の耳に入ったら・・・・

今まで浮かれていた気持ちが一気に引く。

1週間、悩みに悩んだ。
他の人間から耳に入るとどんな尾ひれがついて
香菜の耳に届くか計り知れない。
それだったら私が話すのがベストだろう・・・
但し、守りを固めてからで無いと、下手を打ったら
取り返しのつかない事態の可能性も未だ捨てきれて
いない。

苦肉の策、苦渋の決断。親として蛮行を止められなかった
恥。
全てを打ち明けなければならない時。

忙しい仕事の合間に時間を作ってもらい、一那君のオフィスで
顔を突き合わせ言葉を選びながら、今や魑魅魍魎に取り囲まれ
奮闘している彼なら言わんとしている事を汲み取ってくれると
信じ口にする。

「そろそろ柚菜の妊娠を柚菜の仕事関係やら親戚筋にも
報告する時期がきていると思うんだが、香菜には私が
直接言うので任せて欲しい・・・」
「   そうですね。 香菜が他から聞かされるのと
不都合(・・・)が生じる可能性があるかも
しれませんからね。
お義父さんの方からお願いします。」
「  一那君、子供が生まれるから引っ越しとかも視野に
いれているのかい?」
「いえ、トラブルが無ければ引っ越しは考えていません
24時間でコンシェルジュ対応ですしセキュリティーも
万全なので」
「  そっか  うん そうだよな  セキュリティーが
万全なら安心だ。」
「お義父さん、大丈夫です 妊娠がわかってからは
私も更に気にかけてくれるようにコンシェルジュに依頼して
いますから。」
「 ありがとう 助かるよ」
「イエイエ 妻と我が子の為ですから・・」
その言葉にカチンときたことは隠す。
俺の子だ!!! 柚菜は俺の子だ!
心の中で何度も何度も叫んだ。