翌日、2人で向かった産婦人科で妊娠3か月と判明。

次回診察を受けてからの母子手帳を申請するように
と言われた時に日本は確かに出産のリスクは少ないが
海外ではリスクが高い事を学校で習ったし
うちの事務所では取り扱わないが、医療訴訟の
問い合わせが少なからずあるのも現実味を帯びて
くる。

まだ、小さな小さな点でしか確認は出来なかった
けれど
私の心に何かが芽生えた。

新し命が宿っているのはなんとなくお互いに認識して
いたけれど病院で確認出来ると悦びが湧き出てくる。
私の中にあんなに夢見た大好きな人との子供が居る。

私、この子を産んで良いんだ・・・・
一那との子を私のお腹で育てて良いんだ・・・・

「柚菜と俺の子が ここに居るって 幸せだな~」

まるで私の気持ちを代弁するかのように言葉を紡ぎ
優しくお腹を撫でてくれるその手に自分の手を重ねる

私達は未だ夫婦として未熟かもしれない。
だけど 未熟なりにも親にさせてくれる 
この奇跡を大事にし守りたい。



一那への愛情を匂わせるようなことを口にするのは
未だ苦手意識が残っているけれど、それも一那は
理解してくれているのか私に強要する事はせずに
一方的に愛情表現をしてくれる。
最初は戸惑ったけれど今はすんなりと受け入れられる。

だからこそ私も

「私も 一那との赤ちゃんが来てくれて嬉しい」

渾身の気持ちを込めて口にした。

「・・・・・・・・・・・・」

なんの反応もない 微妙な空気になってしまった静寂に
”間違った”と思い無かった事にしたくなり

「 わす 「うれしい」 」

「「 え 」」

同じ言葉の ” え ” だけれど発した意味は違うのに
シンクロした事が可笑しくて

同時に見合って笑い出した。

こうして私達は夫婦として家族として過ごして
いくのかもしれない。

同じ方向を向いている様で向いて居なかったり 
だけど気がついたら道路を挟んであっちとこっちで
同じ方向で歩いていて、でも歩くスピードが違って
しまっても目的地でパートナーが来るのを
待っているのかもしれない。
必ずしも同じ歩調で同じ道路を歩かなくても、
違う風景を見ても、同じ風景をみても同じように
感じなくても良いのかもしれない。

お互いの想いを気持ちを口にして齟齬があっても
会話をすれば分かり合えるかもしれない。
相手が自分の事を理解しているなんてあり得ない。
だって自分だって自分の事が解らないのだから。

どんな親になるのか私達には未知の世界だけれど
一那とだったら育てていける。
大事に育てて行こう。

お腹の子が安心して幸せな子供時代を過ごせるように。

「一那、私はきっとママとしても妻としても完璧には
出来ないけれど、この子を大事に育てたいし、
家族として安心できる家庭を作りたいから
これからも一緒に居て下さい。」
「それはズーっとって取って良いの?」
「うん。 契約なんて言って嫌な思いさせて御免ね。
出来れば忘れて下さい。
いや、忘れてって私に都合が良い言葉だよね。
お願いします契約破棄をして下さい。」

折に触れて悩んでいた。
一那の会社に顔を出す機会が増えてから尚更・・・
家では窺い知れない経営陣としての顔を見る事が
出来たからか、よろず相談を受け、夫婦としての
在り方が其々だと知ったからなのか
口にした時は最善だと思った”婚姻契約” 
確かにあの時はあれしか自分を保つ矜持が無かった。
だからあの提案は他人からは非道だと取られても
他に手立てが無かった
ベストでは無かったけれどベターだった。

一那が不貞を働いていた訳でも無く
私を蔑ろにしていた訳でも無い
ただ、余りにも一那は優しすぎた結果だったのだろう。
でも、姉には優しさだったけれどは私には毒だった。
少しづつ心を蝕まれ、私から無償の愛なる幻想を
奪ったのだから。

その毒は解毒された様に見えるかもしれないが
一度体内に取り込められた毒は消える事は無い。

彼への愛情は無くなってはいないけれど、
中学生だった私、高校生だった私。
事故に遭う前の、遭ってからの私から確実に
純粋だった私を蝕んだ。

今も好きな気持ちは変わらないけれど、
その気持ちと同じように毒も・・・・・

私は彼と一歩を踏み出した日から
大人になった。
女はアクトレス。
守るモノが増えたら一生演じ続ける事の出来る
ヒロイン。

そんな私を誰にもしられてはならない。
自分の中に宿った命と同時に芽生えた母としての私の
感情。