「本当に嫌がっていたの・・カズ君 柚菜が中学生になった頃から
女の子と付き合わなくなったんだよね  それは柚菜が大学で明応に
入ってきた時に他の女子から元カノ面されるのがイヤだからって言って。
ずるい私はそこに漬け込んだの。私が居ればカズ君も余計な告白を回避出来る
からwin winの関係になるよね。で、柚菜が高校を卒業するタイミングで
私達の契約は終了って話で説得したの。」

「それだと話の筋として可笑しくないですか?一那は私が入学した時に
女性の影が有るのが嫌だったのにお姉ちゃんが居て、それこそ入学して
妹に乗り換えたなんて、その方がよっぽど醜聞になりませんか?
その提案ではお姉ちゃん意外に得する人が居ないですよね?」

「私達は登下校を一緒にするだけ。誰かに聞かれたら”幼馴染で隣に住んでるか
帰る場所が同じだから一緒に帰るんだよ”って言っていたの。
”付き合ってるの?”と聞かれても”幼馴染だよ”って2人で同じ様に口にして、
それを勝手に考えるのはその人たちの自由でしょ?
だって私達はお互いに付き合っているとは一言も発していないんだから。
柚菜が入学したら3人で登校して”彼女が入学したから姉としての虫除け任務終了”
と宣言する予定だったの。」

「・・・・・愚か・・・・」

「「え・・・」」

「そんな単純に事が運ぶ訳ないじゃない。それに一那の虫除けって・・・
そんな考えは傲慢以外の何物でもない。一那に好意を抱いた人の
告白する機会を奪うなんて、そんな権利お姉ちゃんには無いよ。
本当に付き合っているなら兎も角、そんな事実が無いのに。
ちゃんと告白して叶ったり叶わなかったりして恋心を浄化させるのに。
もし、当時、一那の事を好きだった人がお姉ちゃんが居るから
告白しないでズーと後悔して未だ恋心を燻ぶらせている人が
この話を聞いたら怒るよ。」

真直ぐの瞳で言葉を紡ぐ柚菜はキチンと恋を浄化させてきたのか?
アイツと向き合って別れを選んだのだと思った。
俺がしてきた中途半端な恋愛と重さが違うと言われたような気がして
嫉妬と後悔でモヤモヤする。

香菜も何も言えなくなって沈黙が支配するこの居心地の悪い空間。

「でも、それって学生時代の話でお姉ちゃん達の云う契約は終了
したんじゃないの?」
「確かに卒業と同時にその話は終わったんだけれど
同じ会社で私はパートナーと一緒に働いているんだけれど、
噂が・・・その人と私がそういう関係じゃないかと
それで、カズ君と一緒に何回か出歩いて居る所を会社の人に目撃して
貰って。その噂を払拭したかったの。
ホテルって言うのも実は違う部署の女の子達が婚活イベントに参加すると
聞いていたから、わざわざ一緒に出掛けて貰って   」
「私がこの間、2人を見かけたのは一那の会社の前だったけれど・・・」
「実は、私の会社ってカズ君の会社の2つ先のビルなの    」
「え・・・・・そんな近くにお姉ちゃん居たんだ・・本当に一那、
お姉ちゃんと繋がっていたんだね」
「・・・うん・・・」
今更だが知っている事に罪悪感が湧く。

「そう・・・・」
否定とも肯定とも取れない言葉を発し、又柚菜は黙ってしまった

黙ってしまう位なら責めて欲しかった、なんでも良い、何か言って欲しい。
そうじゃないと柚菜が遠くへ行ってしまいそうで怖い。
最悪な事態を考え始めると足がガクガクと震え出して指先の感覚が無くなる

「カズ君だけじゃないの。お父さんも知っているのよ。」
そんなのは言い訳にしか聞こえないだろう。柚菜は黙ったままだった。

絶望感に支配された無音の世界を容赦ない柚菜の言葉が破る

「どうして自分で解決しようとしないの?
どうして人を巻き込むの?」

「それは・・・・」
「お姉ちゃんに何か言ってもしょうがないよね。これは私達夫婦の問題だから」
「でも、その火種を作ったのは私で・・」
「自覚はあるんだ・・」
柚菜は口角を少し上げて見方によっては嘲笑っているかのようだけれど
俺には泣いている様にしか見えない表情が余計辛い。