余りにも沈黙が続き、香菜は漸く現状を受け入れたのだろう
振り絞るように

「そう。私は同性しか愛せない。」
「だから?」
「え・・・」
「そう言う人は幾らでも居るわ。私の事務所にも相談に来る方はいるから
だから?私に何を言って欲しいの?」
「ゆな・・・」
「LGBTだから許されるの?そうだとしたら私は逆差別だと思う。
人の心を人で試すなんて人間として不誠実。恋愛感情を抜きしても
してはいけない事だと思うけれど。」
「・・・・・・柚菜には解らないのよ!全てを持っている柚菜に
私の気持ちなんて」
「私が、全てを持っているなんて私じゃない人がどうして解るの?」
「結婚もしてる、地位も名誉もある。手に職があるから1人で
生きていけるじゃない!」
「結婚しているから全部持っているの?旦那様が女性と会っているって
解って生活しているのにそんな結婚生活が全て持っているうちに入るの?」
「柚菜・・別に俺は香菜と・・何かある訳じゃなくて・・」
「結婚しているって事は、相手と肉体関係が無くても、妻の為に使う時間、
お金、をその人に費やしている時点てダメなのよ。お金だって共同財産なの。
それを他の女性に使っている。本来奥さんに使うべきものなのよ。」
「それは・・・・」

俺は安易に考えていた。
柚菜の姉だから・・人助けだからと・・・前もしていたから。
そんな感じだった。

「私が、同じ事していても一那は許容してくれるっていう認識で良い?」

柚菜がアイツと会っている絵が頭に浮かび、猛烈に腹立たしさが湧き、
自分の心に黒いモヤモヤが占め、それが爆破する寸前だ。
”あっ・・”
その感情を柚菜は抱いていた。
言い訳なんて出来なかった。
俺は守りたいと思っていたのに結果的には傷つけていた。
守るべきものは柚菜だけじゃなきゃいけなかったんだ。
いくら柚菜の姉でも助け方が違うことに何で気づけなかったのか?
学生時代の柚菜と付き合う前と同じ助け方ではダメだったんだ。

「無理だ・・・柚菜が他の男と一緒に居るのは許せない・・・
そんな事すら今、指摘されるまで気がつかないなんて愚かな旦那だな・・・」
「柚菜、カズ君のせいじゃない!私がキスしてその後、カミングアウトしたの。
守ってもらいたかったの学校で。あの頃、私はクラスで噂になっていたの
もしかしたら男に興味が無いのかもと・・・恋バナで盛り上がる仲間内で
そんな話を一切する事が出来なかったから。
それに告白されても嬉しくもないし、悦びもしない私に何となく違和感を
持っている人が出てきて
別に彼氏がいない人なんて沢山いたのに人と自分は違うって感じ始めると
それが不安材料になってしまって、それでカズ君にお願いしたの。
カズ君、最初凄く嫌がっていて・・あの頃からもう柚菜の事を
好きだったからね。」

当時の俺の気持ちを香菜(他人)に今更吐露されたくなくて・・・
つい、顔を窓の方に向けてしまう。
夜の窓には鏡の様に部屋の様子が映り込み、歪な3人を映し出していた。
こうやって、客観的に見ると歪だと気がつくなのに何で今まで気がつかな
かったんだろうと後悔が押し寄せる。