「もともと、香菜とは連絡を頻繁に取り合っていた訳では
ないけど、香菜と連絡を取ろうと思えば取れる状態だったのは確か。
柚菜に言わなかったのは香菜が知られたくないと言っていたから
それを尊重していて、実は就職先も知っていた。
ごめん、いままで黙っていて。」

で?


「「・・・・・・」」

私の沈黙が意外だったのか一那は私の瞳を凝視し、
ハッと何かを悟ったかのように焦り出した

「柚菜、何か誤解していない?」
「誤解ってなんですか?」
「いや、俺と香菜がホテルであっている事に  」
「誤解も何もホテルで逢っているのは事実ですよね」
「 ま まって まって 柚菜  誤解だから」
「この状況で何が誤解だと言うのか解らないのですが」
「だって、香菜は妹だよ・・・」
「妹じゃなくて義姉ですよ。」
「そう言う事じゃな無くて 俺にとっては香菜は昔から妹」
「うそを・・・ 嘘付かないで」
「嘘なんかじゃない」
「もう、やめて!!!!!」

私の突然の叫びに一那がピクリと身体を硬直させ、悲し気な瞳で
私を見つめる。
止めて、そんな傷ついた目をするのは可笑しいでしょ!
裏切ったの一那なのにどうしてそんな目をするのよ

「高校生の頃からお姉ちゃんと付き合っていたの知っているから。」

「は?? あり得ないから 俺は香菜と付き合った事はない!」

「今更、昔の事を責め立てている訳じゃないわ、ただこの状況を
整理するのにどうしたって過去が必要でしょ」

「確かに説明するには昔の話をしないとならないけれど、だからって
俺と香菜が付き合っていた事は無い。それはデマっていうか周りが
一緒に登校して居たりしたのを勘違いしただけだ。
お義母さんにもお義父さんにも香菜と付き合っていた事は無いと
話してある。」

付き合っていた事実さえ隠そうとするの?

一那に対する信頼が1つづつ消えて行く。
お願い、これ以上私の恋心を壊さないで。
私が一那を好きだった事を後悔させるような嘘は重ねないで。

「わたし・・・見たの・・・・」

「柚菜、見たって なにを言っているんだ????」

私にそれを言わせるの???
唇をギュっと噛み、口にしようと思った時に


「私達のキスを見たんだよね。那須で・・・・」

姉の声が割って入った。

自分の口からその話をするのも辛かったけれど、姉の口から出た言葉に
やはり、あの時に見たシーンは夢じゃなかったのだと思い知らされ、
胸の奥を容赦なく抉る。

私は今どんな顔をしているのだろう・・・
醜く引き攣っているのだろうか?
そんな私の顔をみたら益々一那は私より目の前で切なげな顔をしている
姉を想うのだろう。

そっと、一那を盗み見ると 見た事も無いほどに真っ青を通り越して
白くなって、ブルブルと拳を震わせている

そして絞り出したような声は今まで聞いた事も無いほどに低く冷たい
「どうして 香菜、お前どうしてそれを 教えてくれなかったんだ!」
「どうしてだろうね・・・」
「香菜、それじゃあ約束が違う!」
「そう、それだよ・・・約束した日に破棄されたら何の為に
私がカズ君に打ち明けたか解らなくなっちゃうでしょ?」

姉の発した言葉が理解出来ない。
”約束”?
告白じゃなくて”打ち明ける” ? その表現も可笑しい・・・
それでも、自分が此処にいるのに 会話している2人には私という存在が
見えていない様な2人だけの遣り取り。
決着をつけるつもり出来たのに、ここに私がいる意義が突然解らなくなった。

帰りたいな・・・帰っても気がつかないんじゃない?
そんな思いが過ぎったら止まらない。
バックを手に取り、静かにここから出ようとした。
2人とも気がつかないと思ったのに”バシ”と腕を一那に捕まれ

「何処行くの?」
さっきまで姉と言い争っていた冷たい声じゃなくて、何処か怯えた
ような声で、そんな声を聞くのは病院で目覚めた時以来なので
少し驚いたが、それでも心が置き去りにされたみたいに何も感じなかった。

慌てる一那にも声を荒げている姉にもどこか距離を感じ、どうして
私は居る必要があるのか・・・こんな茶番に付き合わないといけないのか?
そんな事を考えていた。
だからか
「私が、2人の言い合いを聞く意味あるの?」
と口にした声は私が想像した以上に冷たい声だった。

その声に2人が同時にハッとするのも気分が悪い。

「話が纏まってから呼んでくれる?今の2人の会話を聞いている限り
私が聞く意味も、理由も見当たらない。時間の無駄だよ。そんなのに
私を巻き込まないで下さい。」

心底この2人に振り回されるのはウンザリだ。