昔は大好きだった姉。でもカズ君との一件以来、大好きでは無かった。
でも、嫌いじゃなかった姉。
それなのに覚えていない。
その時の情景も、感情も 何も覚えていない私は薄情なんだろうか?
大学時代の私と姉はどうやって過ごしたのだろう?覚えていない・・・

「お姉ちゃんと私ってどうやって大学時代過ごしたの?」
「それも覚えてないの?」
「うん。スクールに通っていたのは覚えている。寝ても覚めても
勉強していたのも記憶にあるし、司法試験予備試験に受かったのも
教授の名前もゼミも仲間の顔も名前も憶えている。なのに
お姉ちゃんとの事、カズ兄との事、全然覚えていないの・・・」
「香菜と柚菜は有る時から殆ど関わらなくなったのは覚えている?」
「中学2年だよね。」
「そう、あの頃から貴女は自分の世界を模索し始めたのよね。
カズ君への想いにどうする事も出来なかったのが理由なのかは当時
お母さんはその事に触れるのは得策ではないと判断したから
柚菜ちゃんから直接何かを聴いていないから、確実な事は
今となっては解らないわね。

こんな事態になってしまった事を考えるとお母さんの判断は
間違っていたのかしらね???

傍から見ていてもその距離が縮まる事は無かったわ。

受験が近くなるとホームステイに行かなくなった貴女は学校と予備校に
居る時間の方が長かったし
それは大学生になっても変わらなかったものね。大学から戻って来るのは
何時も遅かった。
その結果が3年生で司法試験に合格した事の証明よね。
そんな姿に多分、香菜が姉として、一人の人間として思う事が
有ったのかもしれないわね。柚菜が司法試験に合格した時には
香菜はもう家を出ていたけれど、そうなる事は一緒に暮らしていたら
解る筈だものね。」
「私のせい?」
「いいえ 違うわ。 香菜は香菜で悩みががあったと思うの。
柚菜と同じようにね。
香菜は人に助けて貰おうとした。柚菜は自分で立つ方法を考えた。
香菜は貴女を見て、自分で立ちたくなったんじゃないかと思っているわ。
人に頼り、結果的には他人を苦しめてしまった。その事で香菜は自分を
責めていたんだと思う。柚菜はどんどん強く逞しく、
しなやかになっていっていたから、焦りもあったのかもしれないわね。
香菜は柚菜みたいに自分からは動けな子だったから・・
きっと、中学に2年の冬から香菜は柚菜の行動を羨ましいと
思って見ていたと思うのよ。
『香菜もホームステイに行ってみる?』って聞いたけれど、
香菜には踏み出す勇気があの時はまだ無かったのかもしれないわ
それとも違う理由で行かなかったのかもしれない、
それはお母さんにも解らないけれど
違う方向に向いている貴女たちには姉妹として思い出そうにも
思い出すような触れ合いが、そもそも無くなっていたから仕方が無いの」

「それって・・不仲ってことだよね?」

「それとも少し違うわよ。香菜は貴女に罪悪感があったみたいだし、
柚菜は香菜にコンプレックスがあったから、お互いに適度な距離を保っていた
って言いう方が正解だと思う。」
「罪悪感?」
「フフフ、それはお母さんの主観。もしかしたら違うかもね。」
「でも、コンプレックスは 当たってる。お姉ちゃんが羨ましかったから」
「そう言う事も含めて全部 一那君と話した方が良いと思うわよ。
柚菜は一那君との結婚をナイナイと言っていたけれど、私達から見て
貴方達夫婦はとても仲良くてお似合いだったわよ。」

「‥‥お似合い?」
「そう、事故の二日前の休日に少しだけ家に2人で寄ってくれたけれど
凄く仲良く話していたわよ…この後 一緒に映画に行くって話していたのよ
柚菜が今、どう考えているか何に不安になっているのか解らないけれど
あの時には問題を抱えていえる様には思えなかったわ。」
「じゃあどうして佐倉家に引き取るって話していたの?」
「だって、一那君は何日も仕事を休んで貴女に付きっ切りで、満足に
休んでいないし、日中に1人って親としては不安だからよ。
それに、柚菜の心が20歳で止まっているなら、いきなり一那君と
一緒に暮らすってハードルが高いでしょ?だから少しずつ慣れた
方が良いのかな?ってお父さんと話したのよ。
でも、一那君はそれでは納得出来ないみたいだけれど・・・
何時も言っているけれどお母さんは柚菜の味方よ。
貴女が最善だと思う事を考えている。どんなに一那君が貴女と居ないと
嫌だと言っても、貴女が無理だと思うなら全力で佐倉の家に連れて帰る。
だからキチンと話し合いなさい。」

優しいだけの母だと思っていたけれど、その言葉は私には無い
母としての強さがあり、大人になった筈なのに 真綿に包まれている
ような安心感を与えてくれる。