「おい。お前はお人好しか」

背後から声がして、奈々はビクッと体を震わせて振り向いた。

「倉瀬さん?」

奈々のモニターを覗き込む倉瀬は機嫌が悪そうな表情で奈々を見下ろす。

「その仕事、お前の担当じゃないだろう?そんなもの、ミスしたやつが責任を取るべきだ」

「そう、ですけど。でも緊急ですし、担当者も不在でしたのでまずは相手先に迷惑をかけないことが重要だと思って」

奈々の言葉に、倉瀬は深いため息をついた。

「だからって、代わりにお前が怒られることはないだろう?」

「それは仕方ないですよ。取りまとめたのは私ですし、私は課の窓口の仕事をしていますから。代表で怒られることも仕事のうちです。伝票はメインの担当ではないけど、私もやっている仕事のひとつだし。心配してくださってありがとうございます」

真面目な顔で説明したかと思うと最後は微笑みながらお礼まで言う奈々に、倉瀬はまたひとつため息をついた。

「あとこれだけか?」

倉瀬は奈々のデスクの上にある走り書きされたメモ用紙を手に取る。

「え?あ、はい」

「じゃあ、半分な」

そう言って倉瀬は勝手にメモ用紙を半分に破って、片方を持ってスタスタと自席に戻ってしまった。

「え、あの……」

奈々は倉瀬を視線だけで追う。倉瀬は滑らかな手つきでキーボードを打ち始め、それを見て奈々もまた伝票処理に取り掛かった。