それから、30分後、私は徹の教室へと向かった。

徹は、誰もいない教室で、1人読書をしている。

「徹」

私が声を掛けると、徹は、パタンと本を閉じて立ち上がった。

「玲奈、お疲れ。帰ろ」

そう言うと、徹はスッと私のバイオリンケースを持ってくれる。

「えっ、大丈夫だよ」

バイオリンくらい、自分で持てる。

「今日はいろいろ振り回したから、これくらいさせろよな」

そう言う徹は、バイオリンを返してはくれない。

私は、徹にバイオリンを預けて、2人で校門へと向かう。

「そういえば、ボーカルの子、怪我は大丈夫だったの?」

元気そうに歌ってたけど、どこを怪我したんだろう?

それを聞いた徹は、一瞬、目を丸くして、大笑いし始めた。

「あははは、玲奈、本気で言ってる?
 玲奈のそういうとこ、マジ好き」

えっ? なに?

「全部、嘘に決まってるだろ。最初から、玲奈をステージに上げるために仕組んだんだよ。じゃなきゃ、バイオリンがここにあるわけない」

あっ……

「玲奈、入学してからずっと1人でいただろ? 俺が玲奈のいいところをみんなに言って回るより、バイオリンを聴かせた方が、絶対に玲奈の良さは伝わると思って勝手に計画した」

徹はそのために、バンドのメンバーを説得して、母にこっそり連絡してお願いしたらしい。

「これで、ようやく玲奈の高校生活も花開いただろ?」

これ、花開いたの?

まぁ、確かに突然みんなから話しかけられるようにはなったけど。

「でも、男子には気をつけろよ。玲奈、鈍感だからな」

徹は、バイオリンを持っていない左手で、私の頭をくしゃりと撫でた。

「ひどっ! 私、そんなに鈍くないし!」

そりゃ、今日のことは気づかなかったけど……

「じゃあ、今日、何人が俺のとこへ玲奈のこと聞きに来たか分かるか?」

「えっ?」

私のこと? なんで?

「じゃあ、なんで、俺がわざわざ玲奈の教室まで、帰りの約束をしに行ったか、分かるか?」

は? どういうこと?

私は、分からなくて、首をかしげる。

「俺が行かなきゃ、絶対、今日、他の男子が玲奈を誘ってたよ。で、断るのが下手な玲奈は、よく知らないそいつと帰ることになるんだ」

そんなこと……

「明日も、後夜祭の後、迎えに行くから、一緒に帰るぞ」

なんでそうなるのか分かんないけど、私はとりあえず、こくりとうなずいた。



─── Fin. ───


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