私たちはステージ袖からそっとアリーナへ出る。

バイオリンを抱えた私は、母にバイオリンを渡そうと、キョロキョロと周りを見回した。

すると、駆け寄ってくる人影が見えた。

川添(かわぞえ)さん!」

クラスメイトの女子。

名前は……

「野村さん」

「ねぇ、お店でバイオリン弾いてよ。
 絶対、音色に誘われてお客さん増えるはず!」

「えっ?」

困った私が振り返って徹を見ると、徹はにっこりと笑って、言った。

「行ってこいよ」

私は、バイオリンを抱えたまま、教室へ向かう。

野村さんが、ステージのことを説明すると、みんなが口々に「聴きたい!」と言う。

私は、ケースからバイオリンを取り出し、ステージで演奏した曲を弾いてみせる。

クラスメイトからも、お客さんからも歓声が上がった。

そして、本当にバイオリンの音色に誘われるように、

「何?何?」

と興味深々でお客さんがやってくる。

私は、得意なクラッシックを織り交ぜながら、リクエストされた曲を弾いていく。

そうして学校祭1日目を終えた時、私はクラスの輪の中心でバイオリンを奏でていた。

そして、それを廊下から眺める徹の姿があった。


それを見た女子の1人から、思いもよらない質問が来た。

「ね、玲奈ちゃんって、手嶋(てしま)くんと付き合ってるの?」

は!?

驚いた私は、首をブンブンと横に振る。

廊下では、徹がくすくすと笑ってる。

「玲奈、3組で待ってるから、帰る時呼びに来いよ」

そう言って徹は、自分の教室へと去って行く。

それをクラスメイト全員で見送ると、当然のように質問責めにあった。

「やっぱり付き合ってるんでしょ?」

全く! 徹のせいで!