8月も終盤になると、コンクールも終わり、夏休みも終わった。

9月2日、3日は学校祭だ。

校内が騒がしくなってくる。

私たちのクラスはアイスクリーム屋さんをすることになっている。

アイスクリーム屋さんといっても、市販のアイスを買ってきて売るだけ。

でも、私は販売員はやりたくないので、店となる教室の飾り付けを頑張った。

普段は話さないクラスメイトともポツポツと話をして、相談しながら飾り付けていく。




そして、当日。

11時からステージに立つという徹を見るため、私は体育館に向かった。

11時からといっても、軽音部全体が11時からというプログラムなので、初めは違うグループの演奏だった。

ベースに一緒に飾り付けをしたクラスメイトがいるところを見ると、どうやら1年生のグループらしい。

道理で、ギターもベースもピッチが合ってなくて、絶対音感のある私には聴いてるのがかなりきつい。

徹も絶対音感を持ってるのに、こんな中で毎日練習してて、よく発狂しないでいられるなって思ってしまう。

3番目にステージに上がってきたグループの中に徹はいた。

キャーキャー歓声が上がる中、私は無言でステージを見つめていた。

すると、ギターをぶら下げた徹がボーカル用のマイクに手を掛けた。

「玲奈! ちょっと来い!」

マイク越しに名前を呼ばれて驚いた。

なんで?

私は、恥ずかしくて、立ち上がることもできない。

「玲奈! 時間がないんだ! さっさと来い!」

意味が分かんない。

なんで?

私は、のろのろと立ち上がり、ステージの下から徹に声を掛ける。

「何?」

徹はステージを飛び降りると、私の手を掴んだ。

「何!?」

驚く私を引きずるように、透はステージ傍の階段へと連れて行く。

「ボーカルがさっき怪我して出られない。玲奈頼む。代わりにステージに立ってくれ」

徹は、歩きながらそう言った。

「は? 無理!無理! 絶対無理! 私、歌えない」

楽器が弾けるのと、歌えるのはまた別の問題。

自分の体を楽器として使うには、それなりの練習がいる。

「分かってる。だから、歌の代わりに、主旋律をバイオリンで弾いてくれ」

「は?」

わけが分かんない。

でも、徹は、私の手を引いて階段を上ってしまう。

私は、転ばないようについていくしかない。

「いや、でも、バイオリン持ってきてないし」

ピアノはステージにあるけど、バイオリンはそういうわけにはいかない。

すると、徹はニッと笑った。

「あるよ」