今夜もあなたと月、見ます。




「帰っちゃうの?」


…え?

なに?

その声は確実に私にかけられた

それに応えるように声の方を見た

ここへの唯一の入り口、細い路地の手前

そこにいたのは


深い藍色のダボっとしたシャツを着て、黒いスキニーで長い足を包んだ男の人


「ご無沙汰だね、店員さん」

ここへ来た意味が、できてしまった


「あ……え」

ぱくぱくと口を動かして動揺する私にその人より薄い色をした目を向ける

「といっても1ヶ月とちょっとか。満月の日だけ来るなんてロマンチストだね。店員さん」

…へ?

え、待って

満月の日…だけ?

だけってどういうこと?


「雨が降らなくて、月がちゃんと見える日はちょくちょく来てたんだよ俺」

…え

「君がいるかもしれないって思ったから」

………

え…

うそ


ぽかんと、まるで静止画のように硬直する私に構わず距離を詰めるのは、

紛れもない、カフェオレの人

道枝さんだった