勢いよく吹いた風が、肩までかかる千風の黒髪を揺らす。

(……何だか、嫌な予感がする)

千風は、地面を強く蹴って走り出した。皆の無事を願いながら。

一部が破壊された屋敷を見た千風は足を止め、辺りを見渡す。地面には2本の扇子が落ちており、千風は扇子に近付いた。

『……』

千風が扇子を拾おうとすると誰かに扇子を拾われ、千風は誰かの方を向く。そこにいたのは、ボロボロになった颯だった。

扇子を見つめる颯の表情は暗く、千風は颯に声をかけることが出来なかった。

『千風……』

颯は開いた扇子を閉じながら、千風の方を向く。

『颯、これは一体……皆は無事なの?』

『さっき、この屋敷は強い悪霊に襲われた。悪霊は、何とか浄化は出来た……だけど……芽吹と雪は……消えてしまった』

『消えた……?』

『人間と同じように言うなら……芽吹と雪は、死んでしまった……』

悲しそうに、芽吹と雪が持っていた扇子を颯は見つめた。

『志奈は……?』

千風が恐る恐る颯に尋ねると、颯は『もうすぐ、志奈は消えてしまう……』と震えた声で言う。

『そんな……志奈を助けることは出来ないの!?』

『もう無理だ……千風、僕についてきてくれないかい?』