しかし現実というものは残酷なもので時間は確実に過ぎていき、留学という名の仕事も終え、私は隣国から自国へ帰国することになった。
つまりそれはノアとの永遠のお別れを意味していた。


「エラ。あちらに帰国しても毎日手紙を出すよ。週に一回は花束を。二週間に一度はエラに会いに行くから」
「…ありがとうございます、ノア様」


自国へいよいよ帰る日がやって来た。
ノアは私が乗る馬車の元までわざわざ私を見送り来て私に別れの挨拶を寂しげな笑顔を浮かべてしていた。

ノアは知らない。私が実は自国の貴族ではないということを。ノアが知っている私の全部は全て偽りだということを。

ノアが知っている私の住所も身分も何もかも。全てが偽り。ノアが唯一正しく知っているのは私の〝エラ〟と言う名前だけだ。

きっとここで別れればノアは本当の私を見つけることなどできないだろう。

だがそれでよかった。


ノアは王子様で私は元奴隷の裏社会の人間。
どう考えても、どう足掻いても身分が違いすぎる。本来ならこうやって話しかけられていること自体おかしいのだ。

ましてや恋人だなんてもってのほか。

私はノアの偽りの恋人だった。

全て、何もかもが偽りだった。


「ノア様」
「ん?どうしたの?」


「愛しております、心から」


だけどこの想いだけは本物だ。
私を真っ直ぐ見つめる美しいノアに私は微笑む。瞳から涙が溢れ出ないように堪えながら。


「…はは、嬉しいな。僕もエラを心から愛しているよ」


そんな私に優しくノアが笑う。
そしてそっと私の頬へ口づけをした。