あれから私とノアはもちろん一度も会うことはなかった。
生きる世界が違うのでそうなって当然だ。


5年前のあのまだ幼かったが本気で彼を愛していた当時の記憶は今思い出しても強烈で鮮明だ。
だがきっとあの頃のようにもう身を焦がす程ノアを愛していない。今だってノアの姿を見てしまったからたまたま思い出したに過ぎない。
それだけ長い時間が過ぎてしまったということだ。だからきっとノアも私と同じはずだ。


檻の中から無駄に煌びやかでどこか嘘っぽいオークション会場を見つめる。


「…」


全ての取り引きが終了したオークション会場内はそれでも熱冷めやらぬといった感じでまだまだ人々の帰る気配はない。
あちこちで今日の収穫についてや今日のオークションとは関係ないような会食や仕事の話がされている。


私の仕事はもう終わった。この国の王子、ノアの元に運ばれる前にさっさとここから逃げなければならない。


高値で落としてくれたのにごめんなさいね。


本当はノアに久しぶりに会ってみたい気持ちもある。だがそれでもあくまで私は今仕事中。ここでなるべく大きな騒ぎにならないようにカルマに帰って情報を渡すことが最優先だ。


頭の中でそんなことを考えていると数人のオークションスタッフが私の檻の側までやって来て私を檻ごとステージの袖に運び始めた。