精霊王の娘

アナイスがリリエナのマグカップに氷を落とすと、表面が溶けはじめてカランと鈴のような音を立てる。リリエナはスプーンでマグカップの中をかき混ぜて、氷を充分に溶かしてからミルクティーに口をつけた。

リリエナがマグカップに半分ほどミルクティーを飲み干したところで、真剣な顔をしたアナイスが口を開いた。

「あのね、リリエナ……、わたしね、結婚するの」

思いつめたような顔をしていたからどんなことだろうと思ったが、結婚のことだったらしい。

アナイスはここより北にある小さな町で、林業を営んでいる男性とお付き合いをしている。アナイスは二十四歳。適齢期を少し過ぎていて、本人が不安そうにしていたことを知っていたから、やっと結婚の話が出たのかとリリエナは嬉しくなった。アナイスの話を聞く限りでは、彼女の恋人は優しそうな男性だ。

「おめでとう、アナイスさん!」

「ええ、ありがとう」

はにかむように微笑んだアナイスだが、どうも手放しで喜んでいるようには見えない。アナイスが恋人を愛しているのは間違いないはずなのに、どうしたのだろうか。

「アナイスさん、なにか心配事でもあるの?」

「ええ、そうね……」

アナイスは頬に手を添えて、ふぅと息を吐きだした。

「結婚したら、わたし、ギルドをやめて夫が暮らす町に引っ越すことになるの」