ヴァロンさーーーん……ッ!!!!!

忘れてた。
そうだ、この人はこう言う人だった。
夢の配達人の時はあんなに豹みたいに鋭いのに、アカリさんが絡むと猫みたいに甘々になるんだよな。

ヴァロンさんとの再会で何かが変わると思ったけど、大きな間違いだった。
目の前のこの人は、もう僕が憧れて目指した夢の配達人じゃない。

そう思ったら、「失礼します」って、回れ右をしてすぐに帰りたかった。

……、……でも。

「……大丈夫ですよ」

「え?」

「舞台行って来て下さい。
ツバサ君とここで留守番してますから」

残念そうに苦笑いしてるヴァロンさんを見たら、僕は心にもない事を言っていた。

「きっと、まだ会ったばっかりだからツバサ君も警戒してるんだと思います。
少しずつ仲良くなっていきますから、安心して下さい」

子供と仲良くなる気なんて、サラサラない。
ただ、ヴァロンさんの力になりたい。
僕の心はそれだけだった。

「マジか?」

「ミライ君、本当にいいの?大変じゃない?」

「大丈夫ですよ、余裕です。妹の面倒だってみてるんですから」

嘘ばっかり。
妹の面倒なんて、夢の配達人の仕事に必死で数回しかみた事なければ、家にも滅多に帰らないし、そんなに仲良くもない。

でも、どうせ誰も気付かない。
僕が嘘吐きなんて、誰もーー……。

「じゃあ、お言葉に甘えて行って来てもいいか?」

「はい」

「ミライ君、本当にありがとう!
何かお土産買ってくるわね!あ、冷蔵庫にある物とか遠慮なく食べて!」

「そんな、気にしないで下さい。
さ、急いで支度して下さい。舞台、始まっちゃいますよ」

「あ!ほんとだ!急がなきゃ〜」

……
…………パタパタと忙しく準備をして、ヴァロンさんとアカリさんは出掛けて行った。

さてと、今から舞台を観て、久々って言ってたしゆっくりデートしてくるんだろうな。おそらく三、四時間は帰って来ない。
ヒナちゃんとヒカル君も学校だし、夕方まで帰って来ないよな。

そんな事を考えながら見送った玄関からリビングに戻ろうと振り返ると、ツバサは扉に隠れながら僕を見ていた。
泣きはしないんだな、不思議と。それに、僕に全く興味がない訳ではなさそうだ。