「!!……、っ……ヴァロン、さん」

「お!久し振りだな、ミライ!」

父に呼ばれて事務所に行くと、そこに居たのはずっと会いたかった人。
そして同時に、今1番会いたくない人でもあった。

ヴァロンさんはこの時、妻であるアカリさんの祖父から会社を受け継いだ新米の社長。
それまでに様々な事件に巻き込まれて、夢の配達人を突然辞めてしまったのも、その事件から家族や大切な人を守る為だったと聞いていた。

久々に目にするヴァロンさんは、相変わらず若々しくて綺麗でカッコ良くて……。眩しかった。
きっとそれは、例え夢の配達人ではなくなっても、彼が新しい目標を見付け、真っ直ぐに生きているからに違いなかった。

……だから、会いたくなかった。
今の、ドン底の自分を見られたくなんてなかった。

けど、……。

「お前に仕事を頼みたいんだ」

「!……え?」

なかなか目を合わせられずにいた僕に、ヴァロンさんが言った。

ヴァロンさんが、僕に依頼ーー?

微かに、胸がトクンッと脈を打った。

多分、僕は嬉しかったんだ。
理由なんてない。ヴァロンさんが声を掛けてくれて、ただただ嬉しかったんだ。

「引き受けてくれるか?」

だから、気付いたら返事をしていた。

「……はい」

依頼内容もまだ聞いていなかったのに、僕はOKしていた。
ヴァロンさんに会って、声を聞くまでは、誰から頼まれようと、どんな任務であろうと引き受ける気はなかったのに……。導かれるように、ヴァロンさんからの任務を引き受けていた。

……
…………。

「!……あら。いらっしゃい、ミライ君!」

「お久し振りです、アカリさん」

「うっそ、背伸びたわね〜!びっくり〜!」

ヴァロンさんに連れられて、僕は自宅にお邪魔する事になった。
出迎えてくれた、妻であるアカリさんに会うのも久し振り。彼女も相変わらず、少女のように可愛らしい女性。とても優しくて、料理が上手で、幼い頃は何度もこの家に遊びに来させてもらった。

久々の再会。懐かしい雰囲気に過去を振り返っていると、アカリさんがふと自分の後ろの足元に視線を移して言った。

「ほら、ツバサもお兄ちゃんにご挨拶して」

「っーー……!」

アカリさんが優しく抱き上げるその幼児を見た瞬間、ハッと呼吸が止まった。
白金色の髪をした、ヴァロンさんにそっくりな子供。

これが、僕が2歳のツバサと初めて会った日だった。